第199話:温泉とおもてなしと騒動と 1
この日、俺が散策を終えて温泉街で拠点にしている宿に戻ると、アリーシャから声を掛けられた。
「トウリさん。そろそろ陛下たちからメールバードが戻ってくる頃だと思うので、おもてなしの話し合いをいたしませんか?」
「俺もそのことを考えていたから助かるよ」
「それと、何やらハルカさんから良いアイデアがあると聞いていますよ」
ほほう、秋ヶ瀬先生からそんなことをねぇ。これは、全面的に先生に丸投げしてもいいかもしれないな。
「……トウリさん、もしかしてハルカさんに丸投げしてもいいとか考えていませんか?」
「……ん? いいや、そんなことは考えていないけど? あは、あははー」
ど、どうしてバレたんだ?
「とりあえず、話を聞いてみましょう。主要な方々は集まっていますし、早速参りましょうか」
「……はい」
ジト目で見られながらも、俺はアリーシャの案内でみんなが集まっている部屋へと移動する。
中には先ほど話にあがった先生だけではなく、グウェインにレレイナ、そして円とユリアと新、そして森谷が集まっていた。
「それではこれより、陛下たちをお迎えするためのおもてなし会議を始めたいと思います!」
……なんだよ、おもてなし会議って。
俺がそんなことを考えていると、みんなはどうやっておもてなしをするべきかということを次々に口にしていく。
温泉でのおもてなしは当然だが、どのようなサービスを提供するのか、そして美味しい料理の準備まで、あがってくる話の幅が広い。
というか料理はグランザウォールの料理を出したらいいんじゃないのか?
「……なあ、アリーシャ。温泉やサービスはともかく、料理はグランザウォールで人気のものを出したらいいんじゃないのか?」
「それではダメです!」
「……なんで?」
「なんでって、陛下たちは王城で素晴らしい料理を召し上がっているんですよ? そこにグランザウォールの料理だなんて、王都の庶民の味にも劣るかもしれませんよ!」
いやいや、言い過ぎじゃないか? っていうか、自分の領地にことを悪く言い過ぎだろう。
「アリーシャさん、そのことで私から一つ提案があります」
俺とアリーシャの会話から一つの提案を口にしたのは、先生だった。
これは、先ほど話に出てきたアイデアのことだろうか。
「なんでしょうか、ハルカさん?」
「料理については、シュリーデン国に残っている生徒の力を借りるのはどうでしょうか?」
……生徒の力って、クラスに料理上手なやつがいたってことか?
「ですが、陛下にお出しする料理ですよ? その、こう言ってはなんですが、子供たちが作る料理ではさすがに……」
まあ、そうなるよな。
失敗でもしたら大事になりかねないし、クラスメイトが作った料理が王族の口に入るだなんて、考えたくもない。
しかし、先生は自信満々で続きを口にした。
「生徒たちは中級職以上の職業を授かっています。それは戦闘職だけではなく、支援職も同様なんですよ」
「支援職も……あっ! も、もしかして、料理を得意とする職業の方がいたんですか?」
アリーシャの言葉を聞いた先生は、ニヤリと笑って大きく頷いた。
「その通りです。なので、その子たちをこちらに招いて料理を作ってもらえばいいかなと思ったんです」
「それ最高ですよ、ハルカさん! 料理を得意とする職業は中級職以上でも十分に一流だと言われているんです! ……ま、まさか、上級職がいるなんて、言いませんよね?」
「……ふふふ」
「い、いるんですね! これは、楽しみです!」
おいおい、楽しみなのはアリーシャじゃないのか? ……いや、どうやら違うな。グウェインやレレイナさんも楽しみにしているっぽいぞ。
「じょ、上級職の料理職って、どんな料理が食べられるんだろう!」
「私、ここにきて本当によかったです!」
「なあ、グウェイン。上級職の料理職ってそんなにすごいのか?」
興味本位で聞いてみたのだが、グウェインはものすごい勢いで説明してくれた。
「すごいってものじゃないよ! 上級職の料理職となれば、王城の料理長クラスなんだぞ! それって王族と同じものを食べられるってことなんだからな!」
「そ、そうなんだな。……でも、そんなにすごい存在をシュリーデン国が貸し出してくれるのか?」
きっとシュリーデン国でも重宝されているだろう。もしかすると、あちらの料理長に就任している可能性だってあり得るんじゃないだろうか。
俺がそう口にしたものの、それでも先生の笑みが消えることはなかった。
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