第173話:予定外のサバイバル生活 41

 他にもどんな魔導具があるのかと詰め寄られたのだが、時間も遅くなってしまったので俺たちは足早に宿屋へと戻っていった。

 陛下からは城の一室を使ってもいいと言われたのだが、そうなると遅くまで掴まる可能性もあり、さらにいえば嫌味な大臣と顔を合わせる可能性もあると思ったので遠慮したのだ。

 ユリアはだいぶ寂しそうだったが……いや、違うか。こいつの場合は暴れ足りなかっただけだろうな。

 連れ帰る時に訓練場をパッと見たけど、騎士団長と副団長以外の騎士がほぼ全員倒れていた。

 ……あれ、絶対にユリアがやったやつだよな。

 対人戦でも二人以外に敵なしってなると、後は誰と模擬戦をやればいいんだって話だよ。

 グランザウォールでいえば新くらいか? ヴィルさんはここの騎士たちと同じくらいの強さだし、ライアンさんがギリギリ相手になるかって感じだな。

 ……そう考えると、ライアンさんって強いんだな。中級職でユリアとやりあえるステータスだし。


「……どうしてグランザウォールにいるんだろうなぁ」

「どうしたのですか、トウリさん?」

「あ、いや、なんでもないよ」


 独り言を聞かれていたようで、俺は笑いながら誤魔化した。

 単なる疑問だし、後で本人に聞けばいい事だしな。


「ねえ、アリーシャさん。本当に明日には戻っちゃうの?」

「えぇ。魔の森の開拓を進めて、モリヤ様を開放しなければなりませんからね」

「ふーん……ねえ、桃李」

「ん? どうした?」

「私が譲ってもらえる従魔って、どんな魔獣なのか分かる?」

「あー、そういえば聞いてないなぁ」


 とはいえ、俺にはエンシェントクリスタルドラゴンで欲しいと思っていた魔獣だったし、新には戦いの幅が広がるハク、円には魔法を安全に放てるよう盾役のグレゴリを譲ってくれた。


「……まあ、ユリアの戦い方にあった従魔を譲ってくれるはずだよ」

「そっか。……その子がいれば、騎士団長に勝てるかしら」

「お前の頭の中はそれだけなのか?」

「だって! どれだけ工夫しても勝てないんだよ! 一撃も与えられないし、悔しいのよ!」

「脳筋は負けず嫌いでもあったか」

「誰が脳筋よ!」


 痛い! いきなり殴るなよな!


「そ、そういうところが脳筋だって言うんだよ!」

「黙れ! このひょろひょろが!」

「ちょっと、二人とも、人が見てますよ?」

「「……あ」」


 そういえば、まだ宿屋に向かう途中だったんだ。

 クスクスと笑い声が聞こえてくると、俺もユリアも下を向いて顔を赤くしてしまった。


「全く。それにしても、本当によかったんでしょうか?」

「……何がだ、アリーシャ?」

「だって、陛下から信頼してもらえるのは名誉な事なのですが、全てはトウリさんたちの力のおかげです。正直なところ、私は何もしていないなって思ったんです」

「なんだ、そんな事か」

「そんな事って、私は結構真剣に悩んでいるのですよ?」


 悩んでいる事は間違いないのだろう。だが、その悩みは全く意味を成さない。


「前から言っているけど、アリーシャがいなかったら俺はこの場にいないし、それはユリアたちも同じだ。出会ってからだって世話を焼いてくれているし、助けてくれている。それのどこが何もしていないって言うんだ?」

「でも、ただ皆さんの世話をしていただけですし、今では皆さんだけでも生きていけますよね?」

「今はな。でも、今の俺たちがあるのはアリーシャのおかげだ。それに、今ならアリーシャも十分な戦力になってくれているじゃないか」

「それは、そうですが……」


 まあ、悩んでしまう気持ちも分からないではない。

 俺たちが神級職や特級職で、自分は下級職なわけだしな。実際に活躍しているとはいえ、引け目を感じてしまうのだろう。


「誰かから文句でも言われたのか?」

「いえ、そんな事はありませんけど」

「なら自信を持てって。アリーシャは間違いなく、俺たちと同じくらいの活躍を見せているからさ!」

「……いや、さすがに桃李と同じくらいって言うのは言い過ぎじゃないかしら?」

「……そうですね。それは絶対にあり得ませんね」

「えぇっ!? 俺、結構真面目な話をしていたんだけど!」


 ユリアの言葉にアリーシャが同意を示して大きく頷いている。

 俺としてはなんだか裏切られた気分なのだが、アリーシャの表情がどこか柔らかくなったように見えたので何も言わないことにした。

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