第172話:予定外のサバイバル生活 40

 騎士団長に関わるのが嫌なのか、今回はアリーシャも一緒になって戻ってきた。

 ユリアは変わらず訓練場に残っており、他の騎士たちと模擬戦を行うらしい。

 シュリーデン国へ向かう前にも言われていたが、対人戦の経験はここでしか得られないものだし、貴重な経験になってくれるだろう。

 さて、話は戻り俺たちの事なのだが、サニーが十分な戦力になるという事は分かってもらえたようで、さらに言えば俺の言う事をしっかりと聞いてくれる姿にも好感が得られたようだ。


「本当に従っているのだなぁ」

「はい。先ほども言いましたけど、レベルは円のグレゴリ、新のハクが高いので、現段階での強さは別の二匹の方が強いですよ」

「そうですか。……そうなると、グランザウォールの戦力は、我々よりも強固なものと言わざるを得ませんね」

「あの、ダメでしょうか?」


 ディートリヒ様の言葉にアリーシャが不安そうに口を開いた。

 以前にも問題として上がった、謀反の可能性を疑われるかもしれないのだ。

 しかし、そこは陛下とディートリヒ様の中では解決済みだったみたい。


「その事に関してはもう気にしなくてよいぞ、アリーシャ」

「え?」

「その通りです。私たちはすでにアリーシャ様やマヒロ様、それにグランザウォールを信頼しております。謀反だなどと疑う事はしておりませんよ」


 スキルの習得方法だったりシュリーデン国への出兵、他にも魔の森産の素材を大量に運び入れているので、国への貢献度でいえば相当なものだ。

 というか、魔の森を開拓している時点で貢献度は他の事など些事に思えるかもしれない。

 だって、数十年、数百年と開拓が進まなかった魔の森だよ? それを開拓しているんだよ? そりゃあ、貢献度も高いってもんでしょうよ。

 最初こそ疑われたけど、今となっては全幅の信頼を置いてもらっていると思っていいだろう。


「森谷の話だと、俺たち三人にだけ従魔を譲るのもあれだから、ユリアにも譲るって言ってましたし、最終的にはもう一匹は戦力が増えると思いますよ」

「……すごいですね、モリヤ様は」

「うぅむ。マヒロの話を聞くと、本当にモリヤが悪魔でなくてよかったと思えてならんなぁ」

「あいつが本気を出したら、国の一つや二つは滅ぶと思いますよ?」


 俺の言葉に二人は黙り込んでしまったが、マジでそれだけの実力を持っているし伝えておいて損はないだろう。

 暗に森谷を怒らせるな、という意味も込めているんだけどね。


「しかし、それだけの戦力を抱えるとなると、こちらからも誰かグランザウォールに派遣しなければならないかもしれないのう」

「どうしてですか? 定期的に連絡は入れますけど?」


 陛下の言葉に俺は首を傾げながら答える。

 無理に人を派遣する必要は正直なところ、ないと思う。

 別にみられて困るものとかもないんだけど、その人ってきっと優秀な人になるだろうし、辺境の地に派遣されるってなったら、相当にへそを曲げそうなんだよね。

 そんな人の相手をしている時間があるなら、魔の森の開拓を進めて早く森谷を連れて帰りたいってのが本音なのだ。


「それはそうなんじゃが、報告をなるべく早く耳に入れたいのだよ」

「確かに、それはありますね。とはいえ、グランザウォールの現状を打ち明けられる人勢となれば限られてしまいますよ?」

「そこが問題だ。うぅむ、どうしたものか……」


 ……うん、これって、あれの出番だな。いきなり役に立つとか、ありがたすぎるだろう。


「あ、あのー、陛下、ディートリヒ様?」

「なんだ、マヒロ?」

「こんなものがあるんですが、いかがですか?」

「これは……紙、ですか?」

「えっとですねぇ、これはその、魔導具でして」

「「……ま、魔導具!?」」


 うおっ!? 突然二人して前のめりになりながら大声をあげたよ!

 そ、そんなに驚く事なのか? 王都、しかも王族なら持っているだろうに。


「な、何故に魔導具をマヒロが持っておるのじゃ!」

「え? 作りましたけど?」

「つ、つつつつ、作ったですって!?」

「は、はい。森谷に教わったんですけど、今では俺も作れるようになりました」


 まあ、メールバード以外にも鑑定を使えば作れるものはもっと増えるんだけど……反応を見るに、今は伝えない方が良さそうだな。


「そ、それで、これはどういう効果を持った魔導具なのだ?」

「単純ですよ? 届けたい相手に飛んでいってくれる、ただそれだけです」

「た、試してみてもいいでしょうか? いや、これは使い捨てですか? それならば貴重すぎて使えませんよね」

「あ、いいえ、大量に作ってあるので全然大丈夫ですよ」


 そう口にしながら魔法鞄から十枚以上のメールバードを取り出すと、二人の開いた口が塞がらなくなってしまった。


 その後、実際にメールバードを飛ばして陛下のところまで飛んでいくと、二人はとても興奮しており、最終的にはこれを使ってやり取りをしようという運びになった。

 ……陛下にも、何枚か献上しておく必要がありそうだな、これ。

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