第171話:予定外のサバイバル生活 39

「ウインドバレット!」

「ビギャ!」


 ディートリヒ様が風の弾丸を撃ち出すと、サニーは炎弾を口から吐き出す。

 お互いの攻撃がぶつかり合い相殺されると、中央では小規模な爆発が何度も起きている。

 あまりの衝撃に砂煙だけではなく、爆煙まであがり視界が段々と悪くなっていく。

 そうなると有利になるのはサニーだろう。

 気配を察知する能力でいえば、魔の森で生活をしてきたサニーに軍配が上がるはずだからだ。

 音をたてないように飛び上がったサニーはディートリヒ様の後方へ移動し、そのまま突進を仕掛けて――え?


「エリアレイン!」


 ディートリヒ様の周囲にだけ、突如として雨が降り始めた。

 とても小規模な雨なのだが、そのおかげで砂煙は地面に落下し、爆煙も収まりを見せていく。

 視界を確保したディートリヒ様だったが、それでも雨の向こう側はいまだに視界が悪く、その中に潜んでいるサニーを見つけるのは一苦労だろう。


「ビギャー!」


 意を決したのか、サニーが煙の向こうから一直線にディートリヒ様へ突進を試みた。


「セイントシールド!」


 直後、二人の間には七枚の光の盾が顕現すると、サニーが盾に突っ込んでいく。

 一枚、二枚、三枚と割れていくのだが、サニーの勢いは確実に減少してしまう。


「見えましたよ! ジェットストーム!」


 五枚目で完全に勢いを殺されてしまったサニーに対して、ディートリヒ様が水魔法と風魔法を同時に使う、水の竜巻を発動させた。

 水は雨でぬかるんだ地面から、風は周囲から集められると、サニーの真下から巨大な水の竜巻が現われて飲み込んでしまう。


「ジェットストームに囚われた魔獣は、いくら上級魔獣といえど簡単に抜け出す事はできませんよ! マヒロ様、サニーはまだ降参しないのですか?」


 勝利を確信したのか、ディートリヒ様が俺に話し掛けてきた。


「……いいえ、まだですよ」

「ビィィィィ……ギャアアアアァァァァッ!」


 俺がニヤリと笑いながらそう宣言すると、訓練場にサニーの咆哮が響き渡った。

 そして、サニーの種族であるエンシェントクリスタルドラゴンが持つ特性が効果を発揮した。


「……わ、私の魔法が! セイントシールドが、吸収されている!?」


 エンシェントクリスタルドラゴンは、魔獣の中では珍しく光魔法との親和性が非常に強い。

 他の魔法も可能なのだが、特に光魔法であればその魔力を吸収して自らの力に変える事ができるのだ。

 それに、ディートリヒ様はこうも言っていた。上級魔獣でも簡単には抜け出せないと。

 ならば、特級魔獣であればどうだろうか。

 サニーはまだ幼く、レベルもハクやグレゴリと比べて低いものの、正真正銘の特級魔獣なんだよね!


「ビギャアアアアアアアアァァァァッ!!」

「こ、これはっ!?」


 サニーの美しい体から眩い光が放たれると、飲み込んでいた水の竜巻が一瞬にして弾け飛び、霧散してしまう。

 まさかの展開に僅かながら呆けてしまったディートリヒ様目掛けて、サニーがもう一度突進を仕掛けていった。


「――参りました」


 直後、ディートリヒ様が両手を上げて降参を口にすると、サニーは直撃する紙一重でピタリとその身を停止させていた。


「……ピキャ?」

「えぇ、私の負けです。先ほどは試すように見てしまい申し訳ございませんでした」

「ピー……ピキャキャー!」


 目の前で翼をパタパタさせているサニーに対して、ディートリヒ様が謝罪を口にする。

 すると、サニーは気に入ったのか、嬉しそうに鳴くとそのままディートリヒ様の頭の上に留まってしまった。

 ……あの、えっと、誤解が解けたのは嬉しいんだけど、そこには留まって欲しくないって言うか、相手は宰相様だからね!


「いやはや、本当にサニーはお強いですね、マヒロ様」

「ピキャー!」

「あ、ありがとうございます。……じゃなくて! サニー、早く降りてこいって! ディートリヒ様に失礼だろうが!」

「ふふふ、構いませんよ。とてもかわいらしい従魔ではないですか」

「ピキャキャ! ピッキャー!」


 あぁ、あぁぁ! 尻尾をフリフリするなって! 反動でディートリヒ様の頭も揺れちゃってるから!


「……おぉ……おおぉっ! 素晴らしい模擬戦であった! うむ、マヒロよ、我は感激したぞ! モリヤの事、よろしく頼むぞ!」

「あー、えっと……はい、分かりました」


 なんだろう、色々とツッコミたい事はあるんだけど、いい方向に転がってくれたから、結果オーライかな?


「むおおおおっ! 俺との模擬戦も所望するぞおおおおっ! 体が、体が滾って来たぞおおおおっ!」

「あ、さっさとここを離れましょう。陛下、ディートリヒ様」

「そうであるな! ふははははっ!」

「えぇ、参りましょう」

「あぁっ! まさか、行ってしまうのか! 少年よ、サニーよおおおおぉぉっ!!」


 俺たちは脳筋に一切触れる事なく、陛下の部屋へ戻っていったのだった。

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