第170話:予定外のサバイバル生活 38

 訓練場に到着した俺たちだったが、そこはすでに砂煙が大量に舞い上がる戦場と化していた。


「がはははっ! 強くなっているではないかあっ!」

「その余裕が、ムカつくん、ですよっ!」


 ……ムカつくって、やっぱり殴りたいだけじゃないのかい、ユリア?

 そんな事はさておき、訓練場ではユリアが縦横無尽に動き回り騎士団長の死角から攻撃を加えているものの、その全てを騎士団長が笑いながら弾き返している、という構図が出来上がっている。

 以前に見た時と似たような光景だが、ユリアの速さは前回と比べて明らかに上がっているので、騎士団長と言えども一苦労しそうなものだが、そうではないようだ。

 試しに鑑定を掛けてみると……あぁ、なるほど。これならばユリアが敵わないのも頷けるな。


「騎士団長って、特級職でありながら、レベルも高いんですね」

「レベル45、アデルリード王国の最強騎士であるからな」


 運以外の数値が全て負けている。これではいくら速さで撹乱しようにも、騎士団長からははっきりとユリアの動きが見えているはずだ。

 だから弾き返され、受け止められ――反撃される。


「そこだな!」

「うええええぇぇっ!? きゃあっ!」


 背後からの一撃にカウンターを合わせられた。

 振り返ってもおらず、ただ後ろに剣を振り抜いただけの一撃だったが、木剣はユリアに命中して後方へ吹き飛ばしてしまう。

 すぐに立ち上がったユリアだったが、打つ手なしと見たのか両手を上げて降参を示した。


「なかなか強くなっているじゃないか!」

「騎士団長は強過ぎるんですよー!」

「まあ、そうでなければ騎士団長は務まらん! がはははっ!」


 二人の会話に騎士団の面々も爆笑している。

 まあ、騎士団長が脳筋だからなぁ。きっと、ユリアがいなくても今のような雰囲気で訓練を行っているのだろう。

 なんというか、居心地の良い場所だと思う。


「あら? トウリさんに……えっ! 陛下、ディートリヒ様も?」


 俺たちの存在に気づいていなかったのか、騎士たちと一緒に観戦していたアリーシャが驚いて声をあげた。

 すると、他の面々も気づいていなかったようで、慌てた様子でこちら……じゃないか、陛下を正面にして片膝をついた。


「よいよい、面を上げよ。今日は少しばかり訓練場を借りたくてな。よいかな、ヴィグル騎士団長」

「もちろんでございます!」


 お、おぉ。騎士団長は陛下に対してもほとんど態度を変えないんだなぁ。まあ、片膝をついていたから、それくらいの配慮はできるみたいだけど。

 その後、訓練場が騎士たちによって整地されると、一つ頷いた陛下がサニーとディートリヒ様へ視線を向けた。


「では、よいかな?」

「……はい。仰せのままに」

「ピキャー!」


 騎士団は前に進み出てきたディートリヒ様にも驚いていたが、続いて訓練場に入って来たサニーを見てさらなる驚きを露わにしている。

 所々から、あれは魔獣ではないのかという声が聞こえてくるが、間違いではないのでそのままにしておこう。


「そちらはマヒロが従魔として使役している魔獣のサニーである。今回、従魔がどれほどの力を有しているのかを確認するために、ディートリヒとの模擬戦をしてもらう事になった」

「おぉっ! まさか、ディートリヒ様とタイマンを張れる魔獣なのですね! ……うぬぬっ、俺がやりたいぞ!」


 あ、言うと思ったよ。まあ、やらせないけど。


「勝敗はどちらかが降参、もしくは戦闘不能となった場合とする。……ちなみにマヒロよ。サニーは降参をするのか?」

「あー……どうなんでしょう。まあ、なんとかなるんじゃないですか?」

「……ディートリヒよ、それでよいか?」

「…………はい」


 あ、今のは完全に面倒だと思った返事だ。

 しかし、急に決まった模擬戦、しかも陛下主導でだから文句のつけようもないのだ。

 まあ、魔力以外の数値はサニーが上回っているし、俺としては本当にどうにかなると思っているのであえて何も言わないでおこう。


「やるからには全力でいかせてもらいますよ」

「ビギャギャー!」


 だが、ディートリヒ様も宰相でありながら賢者の職業を持つ特級職の一人だ。

 それを考えると、ちょっとだけ俺も楽しみになってきたな。


「それでは試合を始める! 模擬戦――開始じゃ!」


 陛下の合図と共に一人と一匹が同時に動き出した。

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