第164話:予定外のサバイバル生活 32
俺たちの帰還に周囲が落ち着いたのを見計らい、俺は改めてアリーシャに声を掛けた。
「なあ、アリーシャ。メールバードの返信にあった内容で話したい事があるんだが」
「それって、話に出てきたタイキ・モリヤの事でしょうか?」
「あぁ」
どうやらアリーシャも気になっていたのか、すぐに森谷の名前が出てきた。
「レレイナさんにも確認を取ったけど、従魔を授けてくれたのも森谷で、なんでも不老不死になって何百年と生きているらしい」
「な、何百年ですか?」
「あぁ。本人はどれだけ生きてきたか忘れたと言っていたけど、百年は確実に超えているんだって。それで、森谷が召喚された当時だと、従魔は日常にあってはならない存在だったらしいんだ」
腕組みをしながら考え始めたアリーシャだったが、すぐに首を横に振ってしまった。
「……すみません。私も魔獣が人間の暮らしに寄り添っていたという記述は見た事がないのです」
「そっか。まあ、そっちはレレイナさんに任せようかな。俺が聞きたかったのは、森谷が悪人というか、悪魔だって伝わっている事なんだ」
俺は簡潔に分かりやすく、森谷が俺たちと同じ異世界人であり、考え方も悪人寄りではなく、むしろ善人に近いのだと説明する。
そもそも、本当に悪魔だったら魔の森の開拓や調査に協力とかしないだろうし、裏切られるよりも裏切る方だと思う。
まあ、その辺りの情報も操作されてしまっているんだろうけど。
「――……うーん、トウリさんの話を聞く限りだと、タイキ・モリヤが悪魔というのはあり得なさそうですが」
「なさそうじゃなくて、違うんだって」
「あの、トウリ様?」
俺がアリーシャの説得をしていると、横からレレイナさんが声を掛けてきた。
「どうしたんですか?」
「その、アリーシャ様が悩むのは仕方がない事だと思います」
「どうして?」
「アリーシャ様だけではなく、私も、おそらくアデルリード国で育った全ての人が、子供の頃からずっとタイキ・モリヤは悪魔だと教えられてきましたから」
「……マジで?」
話を聞くと、アデルリード国では子供の頃に読み聞かせられる物語、童話のようなものだけど、それにタイキ・モリヤは悪魔だと記されており、子供たちの恐怖の象徴になっているらしい。
……というか、普通は幽霊とか鬼とか、たった一人にしか当てはまらない固有名詞じゃなくてもっと大きなもので例えるのが普通じゃないのか?
「私も小さい頃はお母様に読んでもらいましたから。まあ、今となっては私はただの邪魔者ですけど」
そして、突然ネガティブなレレイナさんが出てきてしまい、俺は苦笑いを浮かべる。
「あぁ、違うんですよ、レレイナさん。私は単に書物にそう記されていたのを見ただけなんです」
「……そうなのか?」
しかし、アリーシャの反応は俺の予想外のものだった。
……いや、ちょっと待て。よく考えてみると、森谷とアリーシャの関係って、ちょっとマズくないか? だって、アリーシャの先祖は異世界人で、グランザウォールを治めていたんだよな?
鑑定士だったから追放されたとか言っていたから可能性は低いけど、森谷を裏切った奴の一人って可能性もあるし、実行犯ではなくても加担した可能性もあるんじゃないか?
「あー……森谷に大和って苗字の仲間がいたかどうか、聞いとけばよかった」
「どうしたんですか、トウリさん?」
「いや、なんでもない。それで、アリーシャは読み聞かされてこなかったのか?」
後でメールバードを森谷に飛ばそうと考えつつ、俺は話を戻す事にした。
「はい。むしろ、私から童話に書かれていたタイキ・モリヤがどのような存在なのかと、お父様やお母様に聞いていたくらいです。でも、二人とも特に悪いようには言っていませんでしたよ?」
「まさか。アデルリード国ではタイキ・モリヤが悪魔だと記されている童話が普通のはずですよ?」
「……いったい、どうなっているんだ?」
しばらく自分で考えてみたものの、分からないなら調べてしまえばいいと頭を切り替える。
森谷の事に関しては鑑定できない可能性もあるが、童話の由来であればきっと問題ないだろう。
「鑑定、タイキ・モリヤが悪魔とされる童話の由来」
鑑定を掛けてみると、俺は予想通りの表示内容に嘆息してしまう。
「……やっぱりなぁ」
「どうしたんですか?」
「わ、私にも見せてください!」
「あぁ、いいよ」
アリーシャとレレイナさんが興味深げに声を掛けてきたので、俺はディスプレイ画面を開示する。
そこに書かれていた内容はというと――
「「……当時の勇者がタイキ・モリヤに裏切られたと嘘の報告を信じ込ませるために作られた童話!?」」
全く。汚い奴らのやる事は、結局全てが汚いって事だな。
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