第163話:予定外のサバイバル生活 31
「――……あれ? みんないるんだ?」
「「「当り前でしょう!」」」
え、えぇぇ~? 戻ってきていきなり怒鳴らないでくれよ。
「……えっと、トウリ? その、後ろにいる魔獣は、いったい何なんだい?」
こちらを睨みつけるように、それでいて涙目で見つめている女性陣三人とは異なり、グウェインは顔を引きつらせながらそう口にした。
ヴィルさんや兵士長に至っては剣の柄に手を伸ばして臨戦態勢である。
「こっちの三匹は従魔だから安心していいよ」
「……じゅ、従魔?」
「……それは本当ですか、トウリ様?」
「……あの、伝説の?」
グウェイン、ヴィルさん、兵士長がそれぞれ驚きの声を漏らしているが、最後の伝説、という言葉に俺は森谷の言葉を思い出してしまった。
従魔が今も一般化されていれば生活もだいぶ楽になっていただろうにと思わなくもないが、今はみんなの誤解を解く方が先だろうな。
「伝説なのかは分からないけど、本当だよ。俺の従魔でサニー。円の従魔でグレゴリ。新の従魔でハクだ」
「ピキャ!」
「……!」
「ガウガウッ!」
声を出せないグレゴリだけは右手を上げて挨拶をしているように見える。
その姿に男性陣三人は口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
そして、意外にも一番冷静だったのはリコットさんだ。
「……それで、三人とも何もないのよね? 見た目だけ無事で、中身はヤバいとかないわよね?」
「それ、怖すぎるからな? マジで大丈夫だから心配しないでよ。それと、レレイナさん」
「ふえ? は、はい、なんでしょうか!」
リコットさんに苦笑しながら答えると、俺はレレイナさんを呼んで確認したい事を聞いてみた。
「手紙で書いていた森谷から、従魔は昔は生活の一部として使われていたって聞いたんだけど、読んできた本の中にそんな記述はなかったかな?」
「じゅ、従魔ですか? 一部の本にはそのような記述がありましたが、大図書館にあったものではありませんよ?」
「というと?」
「私がマグワイヤ家の一員として他領へ赴いた時、良くしてくれていた領主のお爺様がいたんです。その方が個人的に持っていた本に書かれていました」
うーん、どういう事だろう。
王都の大図書館にある本には書かれていなくて、他領の隠居した方が持っていた本には書かれていたか。
……それ、絶対に意図的に隠された可能性が高いんじゃないの?
「その人はどういった人物なんだ?」
「えっと、とても優秀な領主だったって聞いています。今の領主も素晴らしい人ですが、その方が今でも尊敬していて、困った事があればアドバイスをいただくほどに」
それだけの人が個人的に所有している本か……そっちの方が信憑性は高そうだな。
森谷の言っていた事を信じていないわけじゃないけど、いつかは陛下やディートリヒ様に直接説明する事になるだろうし、説明の材料はいくつあってもいいものだろう。
「レレイナさん。もし可能なら、その本の内容を書き写す事は可能ですか?」
「覚えているので大丈夫ですけど?」
「それじゃあ、空いた時間で構わないのでお願いします」
俺はレレイナさんに写本をお願いして……うん……さて、それじゃあずっとこちらを睨みつけている三人さんへの対応に戻りましょうか。できればずっと逃げていたかったけど。
「ずっと心配していたんですからね!」
「メ、メールバードを飛ばしていたじゃないか、アリーシャ」
「それでも心配に変わりありません!」
「何が三ヶ月よ! もっと早く戻ってきても良かったんじゃないの!」
「ユリアも興奮するなって。ほら、ちゃんとレベルも上がったし、強くなったんだぜ?」
「先生は怒っています! どうしてか分かりますか!」
「……いや、分かりませんけど?」
「真広君!」
「す、すみませんでした!」
だって、先生は後から来たわけで、理由なんて分かるわけないでしょうが!
とはいえ、謝らないと怒りが収まりそうもなかったし、とりあえず謝る事にしよう。
「そんな上辺だけの謝罪はいりません!」
それじゃあどうしろって言うんだよ!?
「……ちゃんと、心配を掛けた人たちに、無事な姿を見せてあげなさい」
「……え?」
「メールバードでしたっけ? あれで定期的に連絡は来ていたけど、やっぱり顔を合わせない事には気持ちが落ち着かない事もあるのよ? アリーシャさんも近藤さんも本当に、毎日のように心配していたんだからね?」
「あの、ハルカさん?」
「ちょっと、止めてよ先生」
先生の言葉にアリーシャとユリアが恥ずかしそうにしている。
……そっか、そうだよな。どれだけ言葉を綴ろうとも、心配である事に変わりはないか。実際に顔を合わせて、もしくは声を聞かない事にはな。
「……はい。その、すみませんでした、先生」
「私は大丈夫。今の言葉で安心できましたからね。それに、一番心配していた二人がいるでしょう?」
アリーシャはともかく、ユリアは円の事を心配していたんじゃないのかな? とは口にできず、俺は二人の前に移動した。
「「……」」
「あー、そのー……ぶ、無事に戻りました。ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません」
改まって謝るのは恥ずかしかったものの、俺は今できる謝罪を何とか口にした。
「……本当に、無事でよかったです、トウリさん」
「……全くよ。心配したんだからね?」
「……あぁ。ありがとう、二人とも」
それからは二人も普段通りの態度に戻ってくれた。
――後で思った事なのだが、どうして俺だけが謝罪したんだろうか。円と新はと思わなくもなかったが、結局そこは口に出せなかったのだった。
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