第149話:予定外のサバイバル生活 19
森谷から従魔を受け取った翌日、俺は新と一緒に森へ向かう事にした。
サニーがいるからといって俺のレベル上げが捗るわけではない。そもそも俺の筋力が一帯の魔獣に足りていないのだ。
それでも森に向かった理由としては、俺ではなくサニーのレベル上げを行うためだった。
「ハクがいるから大丈夫だとは思うが、真広も気をつけてくれよ?」
「分かっているよ。俺だって死にたくはないしな」
「ガウガウ!」
「ピキャー!」
新の注意に俺が頷くと、ハクとサニーが元気よく吠える。彼らも俺のために戦うと言ってくれているみたいだ。
せめて果物があれば少しは状況も変わっただろう。ない物ねだりをしても仕方がないのだが、せっかく魔の森の奥にいるので一匹くらいは倒しておきたいと思うのは仕方のない事だろう。
むしろ、そう思わない方がおかしいはずだ。
「ピキャー! ピキャピキャキャ!」
「サニーがすぐに強くなってくれるって?」
「ピキャー!」
「分かった、期待しているよ」
目の前で羽ばたいて見せるサニーを見ていると、落ち込んでいた気持ちが僅かに浮上してくる。
サニーはそのまま上昇していくと、俺の頭の上に乗っかってそのまま撫でてくれた。
……な、なんて優しいんだ、サニーよ!
「……あぁ、なんだか、このままでもいい気がしてきたなぁ」
「ピギャ!?」
どうやらサニーはこのままは嫌なようで、変な声で鳴いてきた。
魔獣だからと言ってはいけないのかもしれないが、サニーはなかなかに好戦的な性格なのかもしれない。
「真広、気を引き締めろ。……そろそろ魔獣がいる場所に入るぞ」
俺がほんわかしていると、新から声が掛けられた。
そうだった、ここな魔の森で、今は魔獣狩りに出ているんだったな。
「分かった。鑑定、魔獣の居場所」
即座に鑑定を掛けてみると、新の言う通り森を少し進んだ先に魔獣が合計五匹潜んでいる。
俺は情報を共有すると、新はそいつらを狩ると宣言した。
「いけるのか? こいつら、レベルが90台で一匹は105だぞ?」
「俺一人ではどうしようもないが、ハクがいるからな。時間は掛かるが、なんとか倒せるようになってきた」
「マジか、すごいなぁ」
久しぶりに新の事を鑑定してみると、レベルが30と大きく上がっていた。
筋力の数値が600を超えているとか、すでに化け物じみたステータスになっている。
しかし、これでも倒せない魔獣とか、ヤバすぎるだろう。
俺の筋力120ではどうしようもないし、果物を食べるにしても相当量を食べないといけないので、お腹に入らないかもしれないな。
「まあ、魔獣の耐久力が1000を超えてたら、確かに新のステータスでも倒すのは無理か」
「ハクが強過ぎるんだよな」
「ガウガウ!」
「……ピ、ピギャー!」
おぉ、どうやらハクだけが褒められた事にサニーが怒ってしまったようだ。
しかし、サニーのレベルは20で他の従魔たちに比べるととても低い。
まあ、それでも俺より数値は高いんだけどな。
「とはいえ、サニーもまだこの辺りの魔獣とは一匹で戦えないから気をつけるんだぞ?」
「……ピキャキャ!」
「いやいや、頑張るじゃなくって、気をつけるんだよ?」
「……ピ」
「そっぽ向かないの。ちゃんとこっちを向いて答えなさい」
「…………ピギャ」
うーん、サニーの奴、分かっているんだろうか。
俺は新と視線を交わすと、二人して小さくため息をついてしまう。
ハクはなんとなく、自分が頑張らなければと思っているようで鼻息を荒くしていた。
「と、とりあえず、先行でハクが魔獣を削る。その後、ハクの合図を待って新が切り掛かって、サニーで倒せそうな相手がいたら任せる、それでいいかな?」
「あぁ。今日も無茶をさせてしまうが、大丈夫か?」
「ガウガウ!」
頭を撫でられながら問い掛けられたハクは、嬉しそうに首を上下に振りながら答えている。
きっとサニーも同じ事をしたいのだろうけど、それはレベルが上がってからだと言い聞かせないといけないな。
「よし、それじゃあハク――ゴー!」
「グルアアアアッ!」
ハクが咆哮をあげるのと同時に、美しい純白の毛から薄っすらと冷気が立ち昇る。
周囲の気温が下がったのか、若干暑いくらいだったのがひんやりとしてきた気がする。
そういえば、ハクを鑑定した時に種族がアイスフェンリルと出ていたっけ。
地面を蹴りつけて飛び出していったハクの姿は一瞬にして消えてしまい、魔獣が潜んでいただろう場所から鳴き声が聞こえてきた。
「よし、俺も行くぞ」
「早いな!」
「そうか? まあ、俺はもう慣れてしまったけどな!」
これが当たり前だと言わんばかりに答えた新も突っ込んでいったので、俺は鑑定結果を確認しながら、頭にサニーを乗せてゆっくりと進んでいく。
開戦から1分も経っていないのだが、ハクの活躍もあってあっという間に戦闘は終了していた。
「……えっと、これは何かなー?」
「ピッキャー!」
驚いた事に、そこには氷漬けになったレベル105の魔獣が転がっていた。
「ハクがサニーのために取っておいてくれたんだ」
「……マジで?」
「ガウガウ!」
「ピキャー! ……ビイイィィィィ……ギャアアァァァァッ!」
「あっついなああああああああぁぁっ!?」
頭の上でブレスを吐き出したサニー。
当然ながら、俺は頭上に猛烈な熱さを感じて叫び声をあげてしまう。
全てが燃えカスにはならなかったものの、触れていないのに前髪がだいぶチリチリになってしまっていた。
「……サ、サニー!」
「ピッキャー! ピッキャピッキャー!」
レベルが上がって喜んでいるのか、サニーは頭から離れて目の前で不思議なダンスを踊っている。
……くっ! 喜んでいるその姿、可愛いじゃないか! 怒れないよ!
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