第148話:予定外のサバイバル生活 18

 その日の夜、森谷から早速従魔の紹介をされた。


「まずは円ちゃんに紹介するよ。こいつはミスリルゴーレムのグレゴリって言うんだ」


 2メートルを超える身長があるグレゴリだが、その体はピカピカと輝いている。おそらく、全身を構築しているのがミスリルだからだろう。

 しかし、ミスリルかぁ……異世界っぽいなぁ、うん。


「……」

「喋れないんですか?」

「ゴーレムには声帯がなくてね。でも、従魔契約をするとグレゴリの意思が伝わってくるようになるから安心してほしい」


 森谷の言葉にホッとしたのか、円は左手を胸に当てながら、ゆっくりと右手をグレゴリに差し出した。


「……私の従魔になってくれるかな?」

「……」


 差し出された円の右手に、グレゴリは右手の人差し指でゆっくりと触れた。


「……うふふ。握手ね」

「……」


 グレゴリの人差し指を握って握手を交わした。


「うんうん、問題はなさそうだね」

「ありがとうございます、森谷さん!」

「グレゴリはゴーレムという種族特有の高い防御力が備わっている。円ちゃんは賢者だから、魔法を放つ時の守り手として使ってあげるといいよ」

「守り手ですか?」

「そうだね。物理的な防御力もだけど、体を構成しているミスリルは魔法の威力を半減させる効果を持っているから、魔法攻撃に対しても有効だよ」


 森谷の説明にグレゴリは大きく頷いて見せている。

 おそらく、森谷が魔法を使う時もグレゴリが壁役を買って出ていたに違いない。


「それじゃあ、契約の譲渡を行うね」

「はい!」


 新の時と同じように従魔契約の譲渡が行われ、晴れて円はグレゴリという従魔を手に入れた。

 そして、ついに俺の番が回ってきた!

 円には悪いけど、やっぱり俺は自分の従魔の方が気になって仕方がないのだ!


「桃李君、顔に出てるよー」

「うっ!? ……し、仕方がないじゃないか! だって、従魔だよ? ラノベ好きからしたら、願ってもない相棒なんだぞ!」

「はいはい、分かったよー。それじゃあ、桃李君の従魔を紹介するねー」


 そう口にした森谷は、一度家の外に出て行ってしまう。

 三人で顔を見合わせていると、戻ってきた森谷の腕にはグレゴリ以上に光沢を放っている小さな魔獣が抱き抱えられていた。


「ピキャー!」

「……え、これって、もしかして?」


 抱えられている魔獣を見て、俺は動きをピタリと止めてしまった。

 というのも、その魔獣は一般的には恐怖の対象であり、最強種とされる種族だったからだ。


「うん、ドラゴンだよー」

「……いやいや、そんな簡単に言っていい存在じゃないよね!」

「ピキャー?」


 まだ子供なのだろう、小さなドラゴンは俺の顔を見つめながら首をコテンと横に倒した。

 ……くっ、可愛いじゃないか!


「まだ子供だけど、レベルが上がって成長したら、間違いなく強くなるよ」

「そりゃそうだろう。だって、ドラゴンだぞ?」

「しかも、この子はただのドラゴンじゃないんだよ?」

「……え?」


 何やら不穏な発言を耳にしてしまったのは気のせいだろうか。

 ただでさえドラゴンは恐怖の対象になってしまうのに、それが普通のドラゴンじゃないって、本当に大丈夫なんだろうか。


「鑑定を掛けてみたら?」

「……か、鑑定」


 森谷に言われるがまま鑑定を掛けてみると……おいおい、マジかよ!


「……なんでお前がこいつを従魔にしているんだ?」

「あははー、本当に不思議だよねー」


 鑑定結果に出てきたドラゴンのステータスには――エンシェントクリスタルドラゴンと出てきたのだ。


「伝説のドラゴンじゃなかったのかよ!」

「そうだよー」

「そうだよーって、だからそんな簡単に……って、待てよ?」


 俺は従魔の話を森谷に持って行った時の事を思い出した。

 あの時、森谷はこうに口にしていた。


『―― うわー。それって、魔の森の最奥にいる伝説のドラゴンだよ?』


 あの時は聞き流していたが、どうして森谷は伝説のドラゴンであるエンシェントクリスタルドラゴンが魔の森の最奥にいると知っていたのだろう。伝説なら居場所すら分からないのが普通ではないのか。

 そこまで考えて、俺は森谷が最初から全てを分かってて俺にエンシェントクリスタルドラゴンの子供を紹介したのだ。


「……お、お前なぁ」

「あははー、バレちゃった? でもさ、桃李君の鑑定に出てきたエンシェントクリスタルドラゴンはきっと大人の個体だよ。この子にはまだ、アンデットを浄化できるような力はないからね」

「まあ、子供だしな」

「ピキャー!」


 俺と森谷が話をしていると、子供のドラゴンが彼の腕から飛び出して俺に突進してきた。


「グヘッ!」

「どうやらこの子は桃李君を気に入ったみたいだねー」

「ピキャー!」


 額を胸に擦り付けてくる動きに、俺は小さく微笑みながら優しくその頭を撫でてやる。


「……森谷。この子の名前はなんなんだ?」

「この子の名前はサニーだよ」

「サニーか……それじゃあ、これからよろしくな、サニー」

「ピキャー!」


 俺が名前を呼ぶと、サニーは顔を上げてから返事を返してくれた。

 こうして、俺たちはそれぞれの相棒となる従魔を手に入れたのだった。

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