第135話:予定外のサバイバル生活 6

「――あれー? 誰かが転移してきたと思ったら、子供たちかー」

「せ、戦闘開始!」

「うえぇぇえぇっ!? ちょっと待ってよ!」


 姿を見せた相手は、明らかにスケルトンだった。

 人語を介しているが、絶対に魔獣だ。俺の鑑定は間違えていたようだ。


「はあっ!」

「ちょっと!」

「ウインドカッター!」

「待って!」

「どりゃあっ!」

「あれ、君だけ弱いね?」

「う、うるさいな!」


 俺にだけ酷い物言いだったが構いはしない。

 新の剣も鋭さを増してきており、円の魔法も数を重視してスケルトンに殺到させている。

 斬撃と魔法の合間を縫って俺も攻撃を仕掛けているのだが、スケルトンは苦も無く回避しているように見える。


「なあー、ちょっとだけ話を聞いてくれないかなー?」

「魔獣の話を聞く気はない!」

「その通りです!」

「【アンノウン】が味方のはずがないからな!」

「えぇー? 本当に少しだけでも……って、アンノウンって?」

「お前の事だよ!」


 自分の存在を理解できてない時点で、おかしな存在である事に変わりはないだろう! それが知恵を持つ魔獣であれば、それこそ危険でしかない!

 そう思い俺は渾身の一振りをスケルトン目掛けて放った。


 ――ガシッ!


「げっ!?」

「真広!」

「桃李君!」

「……そっかー。君たち、今世の勇者たちなんだねー」


 ……は? こいつ、今、なんて言ったんだ? 勇者って、言わなかったか?


「はっきり言おう。僕は君たちの敵じゃないよ」

「嘘をつけ!」

「桃李君を離してよ!」

「うーん、攻撃をしないって約束してくれたら、離してもいいけど?」


 真っ白な骨のどこにこれだけの力を持っているのか疑問は尽きないが、今の俺ではスケルトンの腕を振りほどく事はできないようだ。

 このままでは円も新も攻撃を仕掛ける事ができないだろう。

 こちらから攻撃を仕掛けておいてなんだが、現時点でもスケルトンからは敵意を感じられない。ならば……いいのかもしれないな。


「……分かった」

「真広!」

「新、剣を納めてくれ。円も攻撃をするんじゃないぞ」

「でも、桃李君」

「おぉー! 君がリーダーなんだねー」

「リーダーではないが、お前が何者なのかはなんとなく分かったよ」


 こいつははっきりと言った。俺たちの事を今世の勇者だと。


「俺たちが今世の勇者だとしたら、お前はなんだ? 過去の勇者だとでも言いたいのか?」

「え? そうだけど?」


 やっぱりか。

 どうしてスケルトンになっているのかは分からないが、こいつは過去に勇者と認定された者なんだ。


「それと、僕は異世界人でもあるからね。君は真広桃李君だってね?」

「……あ、あぁ」

「僕は森谷もりや大樹たいきだよ」

「「……ええええぇぇっ!?」」


 驚きの声は円と新からだ。俺はというと、なんとなく予想できていたので何とも思わない。むしろ答え合わせをしてくれたおかげでホッとしている。

 敵ではないと確定したわけではないが、少なからず俺たちの事を理解してくれる可能性が高い相手、だという事だ。


「それじゃあ、手を離すけど……本当に攻撃しないでね?」

「分かっているよ」


 俺がそう答えると、スケルトン……じゃなくて、森谷は素直に手を離してくれた。

 軽く手を振りながら何度かグーパーを繰り返し、小さく息を吐き出しながら森谷に視線を向ける。


「それで、あんたは何者なんだ?」

「過去の勇者、森谷大樹」

「それはさっき聞いたよ!」

「だって、何者なんだって言うからさー」


 ……こいつ、ふざけて言ってるのか?


「あははー。そう睨まないでよ。冗談だからさ」

「だったら言わないでくれるか? 攻撃は止めているけど、全面的に信頼したわけじゃないからな?」

「まあ、そうだよねー。この見た目だもんねー」


 骨がぶつかってカタカタと音を鳴らしているのだが、その姿は奇妙以外の何ものでもない。

 しかし、森谷からはどうしても敵意を感じ取ることができなかった。


「僕は過去に魔の森の踏破の命を受けて仲間とこの地に来たんだ。だけど――仲間に裏切られてこの地に留まる事になった、哀れな神級職の元勇者さ」


 ……は? か、神級職、だって?

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