第134話:予定外のサバイバル生活 5
「――……お……ここ、どこだ?」
光が収まった気配を察した俺は、瞼を空けて周囲を見渡す。
魔の森の中である事に変わりはなさそうだが、明らかに見た事のない光景だ。
俺は光に包まれた時の事を思い返し、ここに連れて来られたのが俺だけではない事を思い出した。
「……おい、大丈夫か? 円、新!」
二人は足元の芝生に倒れていた。
名前を呼びながら肩を揺さぶる。顔を近づけた事で呼吸をしている事は確認が取れたのでひとまずホッとしつつ、鑑定を掛けて今いる場所を確認する。
「鑑定、現在の居場所」
ディスプレイ画面に表示された魔の森のマップを見ていると、どうりで見た事がない場所だと納得してしまう。
俺たちはどうやら、魔の森の奥に転移させられたようだ。
「あの転移魔法陣も、マリア・シュリーデンが設置したものなのか?」
そんな事を考えたが、すぐに違うと思い直す。
マリアが直接この場に来られるはずもなく、転移の祠に設置した転移魔法陣もあの場所が限界だったからだろう。
「鑑定、転移魔法陣を設置した人物」
……これは、ダメか。
レッサーアースドラゴンが突然現れた時と同じように、ディスプレイ画面には【アンノウン】の表示が出てきてしまう。
これがいったい何を意味しているのか、今の俺には鑑定をする事ができなかった。
「……ぅぅん……」
「……ぅぅ……」
途方に暮れていると、二人の声が聞こえてきたので視線をそちらに向ける。
「大丈夫か? 円、新?」
「……桃李、君?」
「……真広……俺たちは、どうなったんだ?」
体を起こしながら質問をしてきた新に、俺は小さく首を横に振る。
「分からん。居場所に関しては確認できたが、誰が転移魔法陣を設置したのかはさっぱりだ」
「桃李君の鑑定スキルでも出てこないの?」
「何度やっても【アンノウン】って出るんだよ」
「……【アンノウン】だと?」
思いがけない表示に新は顔をしかめ、円は不安そうな表情を浮かべる。
とりあえず居場所に関しては開拓を進めている場所よりも奥にいる事を伝えてから、これからどうするべきかの話し合いへと移っていく。
「周囲に魔獣はいないのか?」
「確認をしたけど、今のところはいないみたいだ。……というか、結構先までいないみたい」
「一時的に能力を上げる果物が生っていたところと似たような場所なのかな?」
「いや、だったら果物があるはずだけど、それがないんだよなぁ」
果物さえあれば俺たちだけでもグランザウォール方面へ進んでいく事ができる。
しかし、現状ではそれがない。果物はアリーシャが持つ魔法鞄に入れておいたからだ。
「……さて、どうするか?」
「戻るにしても私たちより魔獣の方が強いのかな?」
「そうだな……レベルが、三桁に近かったり、超えていたり」
「……それは、無理だね」
円が俯いてしまったものの、彼女よりも落ち込んでいる人物がその隣にいる。
「……すまん、二人とも」
「どうして新が謝るんだ?」
「俺が魔法陣から逃げられなかったから、こうなってしまったんだよな?」
「違うよ、御剣君」
「そうだ、全然違う。あれは明らかにミレイさんが悪かったからな」
こちらの指示を聞かずに勝手に動き、ピンチに陥ってリコットさんに助けられていた。
リコットさんがこちらに来たせいで新はほぼ一人でレッサーアースドラゴンと相対する事になり、転移魔法陣への対処が遅れてしまったのだ。
「元を探るとミレイさんが悪いから、戻ってから文句を言ってやろうぜ」
「そうだよ、御剣君。それに、あれは仕方がないと思う。私も直前まで気づかなかったから」
「あー……それ、俺もだわ。これも全部【アンノウン】の仕業って事で」
「……ありがとう、二人とも」
俺たちの言葉に納得してくれたのか、新の笑顔は無理やりではあったものの肩の力を抜いてくれた。
――がさっ。
そんな時、森の奥から何か物音が聞こえてきた。
マップには魔獣のアイコンは映っていない。
「鑑定、近づいてくる何か」
……はは……なんだよ、結局そうなのかよ。
「……真広?」
「……魔獣ではないはずだ」
「……だったら、人? 動物?」
「……分からない。何せ、【アンノウン】だからな」
人なのか動物なのか、敵なのか味方なのか、魔獣ではない事は確か……だと思う。
どうにもこの【アンノウン】のいいようにやられている気がしてならない。
俺たちは最大級の警戒をしながら、【アンノウン】が姿を現すのを待つ。
――がさっ。がさがさっ。
物音が段々と近づいてくる。いまだに敵意というものは感じない。そして――
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