第113話:自由とは程遠い異世界生活 49
翌日の早朝、部屋の外が騒がしくなっている事に気づき顔を出した。
「あっ! トウリさん、急いで身なりを整えてください!」
「アリーシャ、どうしたんだ?」
「王都から本隊が到着しました!」
「はあっ!? こ、こんな朝早くにか!」
どこかで泊まるか野営をしてから準備を整え、昼頃の到着だと思っていたんだがなぁ。完全に予想外だわ。
俺は急ぎ身なりを整えるとリビングに下りていく。そこにはヤマト姉弟だけではなく、円やユリア、ディートリヒ様も集まっていた。
「すみません、遅くなりました」
「いえ、私も来たばかりですよ」
別に宿を取っていたディートリヒ様はニコリと笑いながらそう口にする。
「シュリーデン国に向かう面々も揃いましたし、私たちも出迎えに向かいましょう」
話を聞くと、先に兵士長とヴィルさんが兵士を伴いすでに北門へ向かっているらしい。
まあ、王都の騎士団を迎え入れるんだからそれなりの出迎えが必要って事だろう。
屋敷を出るとやや早足で北門へと向かい、そこで兵士たちと合流する。
「ディートリヒ様やトウリ様たちは前の方にお願いします」
先頭に立っていた兵士長が俺たちに声を掛けてきたので、そのまま前に進んでいく。
すでに本隊は地上からも見える位置までやって来ており、先頭の騎馬に乗っているのは脳筋の騎士団長だった。
「――うおおおおおおおおぉぉいっ!」
――ビリビリッ!
……う、うるせえなあっ! あの脳筋騎士団長は! まだ結構な距離があるってのに耳がキーンってするぞ!
「……ト、トウリ様? あの方はもしや?」
「……騎士団長様ですね」
「……で、では、あの方がヴィグル・ラングドリア騎士団長様ですか」
兵士長とヴィルさんが片耳を押さえながらそれぞれ口にする。
周りを見るとほとんどの者が片耳か、両耳を押さえている者も多い。
そんな中でユリアだけは笑顔で手を振り騎士団長のバカでかい声に応えていた。
「……お前、凄いな」
「え? 何が?」
「……なんでもない」
どうやら騎士団長と訓練を繰り返す中でユリアも脳筋の仲間入りを果たしていたようだ。
「……何よ?」
「ん? いや、なんでもない」
「今、絶対に変な事を考えていたわよね!」
「まさか。何も考えてないしマジでなんでもないよ」
「嘘よ! 絶対に変な事を考えていたわよ!」
……妙に鋭いよな、こいつは。
「それよりも……騎士団長様が勝手に先走って突っ込んできてるぞ?」
「あっ! 私が迎えに行ってくるわ!」
「……は? お、おい、ユリア? ユリア!」
さすがは拳王というべきか、一歩踏み出しただけでもの凄い先まで飛んでいってしまった。これが一足飛びってやつなんだろうか。
「……鬼ごっこをしたら、絶対に勝てないだろうなぁ」
「……ユリアちゃんと仲良くなったんだね、桃李君」
「ん? なんだ、どうしたんだ?」
ユリアが飛び出した後、隣に移動してきた円がそう口にしてきた。
……気のせいだろうか。なんだか怒っているような、不機嫌なような、そんな気がする。
「ずいぶんユリアちゃんと親しく話してたなって思ってさぁ」
「まあ、王都でしばらくは一緒に活動していたからな。雑談くらいはするだろう」
「雑談かぁ……そうだよね。雑談、だよねぇ」
……こいつ、何を言いたいんだろうか。まあ、学校ではほとんど一人だったし、誰かと一緒にいるってなると円くらいだったから違和感はあるだろうけど、そこまで考え込む事だろうか。
「んな事よりも、ユリアが騎士団長を迎えに行ったんだ。すぐにでも本隊が到着するぞ」
「……うん、そうだね」
……シュリーデン国から帰って来たら、少しは話をしないといけないかもな。
……あれ? ってか、戻ってこられるのか?
「……まあ、その辺りはあっちで鑑定するか」
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもない」
やれやれ、俺もまだまだだよなぁ。後から後からやるべき事が出てきてしまう。
もっと先の事も考えられるようにならないと、そのうち鑑定でもどうしようもできない事に巻き込まれるかもしれないなぁ。
――そんな事を考えていると本隊が北門の前に到着し、そのままグランザウォールの門を潜っていった。
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