第114話:自由とは程遠い異世界生活 50

 騎士団の大半はグウェインとヴィルさんの案内でそのまま宿場町へ移動していく。

 騎士団長と副団長、各小隊長らはこれからの事を話し合うためにとアリーシャの屋敷に集まっている。

 グランザウォール側からこの場にいるのは俺とユリアと先生、アリーシャと兵士長とレレイナさん、それと一緒にやって来ていたディートリヒ様だ。


「さて! 俺たちが得ている情報をまずは伝えておこうか!」

「――! ……よ、よろしくお願い、いたします」


 室内であるにもかかわらず大声で言葉を発する騎士団長に、アリーシャは苦笑いを浮かべながらそう口にした。

 とはいえ、情報の確認も大声でされてはさすがに迷惑極まりないと思っていただろうアリーシャの……ではなく、この場にいる全員の気持ちを理解していたのか副団長が口を開いた。


「私から説明いたします。私は騎士団の副団長のナルセン・ルーゼンスと申します」

「はい! よろしくお願いいたします!」

「うむ! よろしく頼むぞ!」


 アリーシャよ、あからさま過ぎないだろうか?

 だが、騎士団長は気にしていないのか大きく頷いて説明を任せていた。


 ――副団長の話をまとめるとこういう事だった。

 最新の情報ではシュリーデン国に残っている兵数は10万人。攻城戦となれば全ての兵を集めるなど無理なので、実質は王様を守っている数百人の精鋭と戦う事になるだろう、との事だ。

 今回やって来た騎士団の人数は500人と総数で言えば圧倒的に少ない数だが、王城内に転移できるのであれば時間との勝負となり、先に王様を討てれば問題ないと上層部は判断したらしい。

 事実、過去の戦争でも指揮官や大将を討てさえすれば軍は一気に崩壊するのだとか。


「……その辺りは、フィクションと同じだって事か」

「ん? 何か言いましたか、マヒロ殿?」

「いや、なんでもありません。続けてください」


 俺の呟きが聞こえてしまったようで、すぐに副団長へ話を進めるよう促した。


「故に、転移後は即座にマヒロ殿の力をお借りする事となります」

「王様の場所を鑑定するって事ですね?」

「はい。最短距離で向かってもらいたい……我々の犠牲など気にしないでくださいね」

「――!」


 最後の言葉にだけは頷く事も、言葉を発する事もできなかった。

 ユリアや先生を最優先に守る事は当然としても、騎士団の犠牲を前提に考えているわけではないのだ。

 騎士団の犠牲を気にするなと言われて、はいそうですねと返事をできるはずがなかった。


「……いいや、犠牲はできるだけ減らします」

「その結果として、シュリーデン国のゴーゼフ王を逃がしでもしたらどうするのですか?」


 ……シュリーデン国の王様って、ゴーゼフって言うのか。今さら知ったぞ。


「……ゴーゼフを仕留める事が第一だ。その中で被害を最小限に抑える」

「それができると言うのですか?」

「できる。……だが、犠牲は少なからず出ると思う。そこは……許して欲しい」


 犠牲を無くすなら戦争なんて仕掛けない方がいい。しかし、シュリーデン国が宣戦布告をしたと言う事はいずれアデルリード国にも魔の手は襲い掛かってくる。

 そうなれば今回出るだろう犠牲よりも多くの犠牲が……。


「……がははははっ! 気にするな、少年!」

「……き、騎士団長?」


 俺が苦渋の決断的な雰囲気を出している中、騎士団長は無駄に大きな声で笑いだした。


「俺たちを誰だと思っている? 騎士団だぞ? 死など恐くはないわ!」

「だ、だけど――」

「だけどもくそもないわ! 戦争に行くという事はそう言う事! 少年は自らの周りの事を考えて行動するんだな! 俺たちの中に自衛できない者など誰一人としていないのだからな!」


 笑いながら言う事ではないと思うが……どうやら俺も覚悟が足りなかったようだ。そして、騎士団の決意と覚悟を信じる事もできなかった。


「……分かりました」

「ありがとうございます、マヒロ殿。であれば確実に――」

「ゴーゼフを確実に仕留めつつ、犠牲を最小限にします。ただし、犠牲に対して俺は感謝こそすれど、悲しむ事はしないと誓います」

「マヒロ殿!」

「騎士団に決意と覚悟があるように、俺にもやるべき事を成すための覚悟がある! 助けられる命を見捨てるような事は絶対にしない!」


 睨み合う俺と副団長。そこに響いてきたのはやっぱりというか――


「……がははははっ! 面白い、面白いぞ! 少年、貴様の心意気を俺は確かに受け取ったぞ!」

「ヴィ、ヴィグル様!」

「いいさ、好きにさせるがいい! 犠牲が減る事はありがたい事だ!」

「ですが、それでゴーゼフ王を逃がしてしまえば――」

「少年は確実に仕留めると言っている! ならばそれを信じようじゃないか――共に戦う仲間としてな!」


 ――! ……仲間、か。そうだな、俺たちはもう仲間なんだ。


「……絶対にやってやる。信じて欲しい、副団長」

「……分かりました。マヒロ殿、よろしくお願いいたします」

「そういう事だ! では俺たちも向かうぞ――転移魔法陣の下へ!」


 話し合いを終えた俺たちはアリーシャの屋敷を後にすると、駆け足で宿場町へ向かったのだった。

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