第112話:戦争3
マリア率いるシュリーデン国軍は、ついにロードグル国軍の本隊と相対していた。
すでに戦端は切られており、お互いに多くの死傷者を出している。
その中で獅子奮迅の活躍を見せているのが笑奈や他の上級職の面々だった。
一方で光也はいまだに温存させられていたのだが、その矛がついに抜き放たれる事になった。
「前線を空けろ! 射線に入ったら死んだものと思え!」
軍を率いる隊長の号令に合わせて前へと命令が伝えられていき、各部隊長が撤退を指揮していく。
一進一退の攻防を続けていたロードグル国軍は突然引いていくシュリーデン国軍を見て困惑の色を深めている。
「狼狽えるな! これはむしろ好機! 前に出て追撃だ!」
ロードグル国軍を率いる隊長が大声で号令を発すると、それに合わせて部隊が一気に前進を始める。
しかし、突然の前進命令に対して即座に動けた部隊は少ない。
対してシュリーデン国軍は今日の戦で光也を出す事を前日から決めており、撤退の動きがとても早かった。
結果として、シュリーデン国軍はさほどの犠牲を払う事なう射線を確保する事に成功していた。
「――さあ、終わらせようか!」
開いた射線の先に立っていたのはもちろん光也である。
両手を頭上に掲げて勇者のスキルを発動させると、手の中に金色の光が集束していく。
最初はただ集束して球体を形成しているだけだった金色の光だが、ある時から天高く伸び始め、1メートル……3メートル……10メートルとその長さを伸ばしていく。
「……な、なんなのだ、あれは」
まだまだ伸びていく金色の光はロードグル国軍の本陣からも、外壁を超えた王都の中からも見えており、ロードグル国の民が全員そちらに視線を送っていた。
「全てを浄化し、消し去れ! 最大出力――セイントソード!」
最終的な長さは顕現させた光也にも分からない。セイントソードの先端は雲にも届くのではないかという程に伸びていたからだ。
そして、光也はセイントソードを真っすぐに振り下ろす。
射線が通っており、その先にいたのは当然ながらロードグル国軍である。
「た、退避! 退避しろ! 今すぐに光から逃れ――」
時すでに遅く、セイントソードは触れた者を浄化というなの金色の光で消滅させていく。
セイントソードの正体は超高密度の魔力の塊だった。
超高密度の魔力を塊は火魔法よりも高温を保持しており、触れた者を一瞬にして燃え上がらせるのと同時に炭化させ、さらに炭化した肉体すらも蒸発させてしまう。
先の戦で荒れ果てた荒野だったが、セイントソードによって更なる荒廃を見せて運よくセイントソードの範囲外にいたロードグル国軍の戦意を一気に喪失させていった。
「さあ! 一気に終わらせるぞ! これでマリア様の勝利を確実なものにするんだ!」
「「「「おおおおおおおおぉぉっ!」」」」
光也の大号令を受けて、シュリーデン国軍の士気が一気に上昇した。
雄叫びをあげて前進を開始すると、戦意喪失中のロードグル国軍目掛けて武器を振り下ろし、魔法を放っていく。
ある者は抵抗する事もできずに、またある者は抵抗するも力及ばず絶命していく。
本来であればこうも圧倒はされないはずだが、セイントソードを目にして戦意を保てている者の方が少なかった。
「い、嫌だ! 死にたくない!」
「逃げろ! 俺は逃げるぞ!」
「投降する! だから助けてくれええええぇぇ!」
ロードグル国軍からは悲鳴があがり、命乞いを始める。中には投降すると口にする者もいたが、シュリーデン国軍は構う事なく皆殺しにしていく。
まるで狂気の軍だが、それも全てはマリアの指示によるものだった。
「……ふぅ」
「お疲れ様でした、コウヤ様」
前線が凄惨な状況になっているとは露知らず、光也は仕事を終えたと言わんばかりに汗を拭いながらマリアの隣に並び立った。
「本当は俺も前線に立って戦いたかったんだがな」
「コウヤ様は勇者様です。全世界の頂点に立つその時には、必ず表舞台に立っていただきますよ」
「もちろんだ。だが、マリア様に危険が及べば俺はいつでも剣を抜くからな!」
「うふふ。ありがとうございます、私の勇者様」
笑いながら頬に軽くキスをしたマリア。周囲には他の兵士もいるのだが気にする様子は全くない。
現時点で、マリアは完全に光也を心を手中に収めている。魔眼の効果などではなく、純粋に彼の心を射止めている。
「ロードグル国を滅ぼしたら、少しだけゆっくりしていかないか?」
「えぇ、もちろんです。それに……」
光也の言葉に肯定を示したマリアだったが、最後の方で言葉を詰まらせる。
「……どうしたんだ?」
「……いいえ、なんでもありません。ゆっくりいたしましょう。お父様たちには先触れを送ればいいのですから」
心の中では戻る場所は滅んでいるだろうと思っていても、その事を口にも顔にも出さずに笑顔を浮かべるマリア。
セイントソードが発動されてから半日が過ぎ――ロードグル国が白旗を振りシュリーデン国の勝利が確定したのだった。
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