第107話:自由とは程遠い異世界生活 44
陛下が待つ部屋に通された俺たちは、まさかの事態に驚いていた。
「申し訳ない、皆の者」
「あ、頭をお上げください、陛下!」
まさか、陛下から謝罪の言葉と同時に頭を下げられたからだ。
驚きの声をあげているのはアリーシャであり、俺とユリアは何も言えず固まっている。
ディートリヒ様も先ほどの笑顔は消えてしまい、表情を硬くしていた。
「シュリーデン国軍の動きの速さを見誤っていた。これほどに進軍速度が速いとは……」
「起きてしまった事は仕方がありません! 顔を上げていただき、これからの事を考えましょう! 少なくとも、私たちには取れる手段が多くございます!」
「……そうか、そうだな。すまなかった、アリーシャよ。ディートリヒも心配を掛けたな」
「いえ、そんな。……正直、私もシュリーデン国軍の速さには驚かされています。何が起きているのか、もしくはこれが特級職である異世界人の力なのか」
相当な読み間違いをしていたのか、自らも特級職であるディートリヒ様としては違いを探すとしたら現地の人間か異世界人か、子の違いしか見つけだせなかったのかもしれない。
「シュリーデン国のクソ王が率いているから進軍速度が速いって事はないのか?」
「それはないかと。勝利が確実である状況であればまだしも、今回の軍は初戦を戦った先発軍です。そこにシュリーデン国王が従軍しているというのはさすがに……」
ディートリヒ様の説明に俺は納得した。確かに不確定要素の多い初戦にクソ王が出向くはずがないか。
であれば、やはり光也か新の力が多分にあるという事になる。
「どちらにしても、我らが動き出す事に変わりはない。マヒロたちには申し訳ないが、先にディートリヒと共にグランザウォールへ向かってくれるか?」
「俺たちは構いませんが、ディートリヒ様もですか?」
「うむ。レレイナの作業状況も気になる故、改良が間に合っておらねばディートリヒにも手伝わせる」
「……あ!」
ヤバい、これは非常にヤバいぞ!
「……まだかもしれません。グランザウォールを発つ時に転移魔法陣の改良について鑑定をしてなかったから」
「そうなのか?」
「は、はい。まさかここまで急ぎになるとも思ってなくて、帰ってからと思ってたので……」
博識スキルでどうにかなっていてくれるとありがたいんだけど……いや、さすがにそれは高望みが過ぎるな。
「そういう事であれば、やはりマヒロたちには先に戻っておいてもらわねばならんな」
「私は護衛たちにこの事を伝えてきます!」
「頼むぞ、アリーシャ」
部屋を飛び出したアリーシャは護衛としてついて来ていた堅牢の盾の下へ駆け出していった。
……あいつら、王都を満喫してたのになぁ。まさかいきなり帰る事になるとは思わないだろうなぁ。
「私たちも向かいましょう。マヒロ様、コンドウ様」
「そうね。行こう、桃李!」
「あぁ、分かった。でもその前に確認だ、ユリア」
「……な、何よ?」
騎士団長から許可が下りた事は聞いている。しかし、ユリアの心の問題はどうだろうか。
この答え如何によって、俺の心の平穏を犠牲にしてでもユリアを連れてはいけないと思っている。
「クラスメイトと戦う覚悟はできているのか? 殺す覚悟はできているのか?」
これは最初に陛下が問い掛けたのと同じ質問だ。
この覚悟がなければ行ったところで無駄死にする事になるだろう。
「……戦う覚悟もできているし、殺す覚悟もできてるわ」
「……本当か?」
「うん。殴り殺してやるわ」
「……ごめん、それは勘弁だわ」
グロ映像しか想像できない。
「……冗談。でも、覚悟ができているのは本当よ。そうじゃないと、訓練してくれた騎士団のみんなにも申し訳が立たないもの」
「……そうか」
真っすぐな瞳で覚悟を口にしてくれたユリアを見て、これなら間違いないと判断した。
「……行こう。ユリア、ディートリヒ様!」
「もちろんよ!」
「それでは失礼いたします、陛下」
「うむ。気をつけろよ」
王城を後にした俺たちはアリーシャや堅牢の盾と合流すると、そのままアングリッサを出発したのだった。
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