第108話:自由とは程遠い異世界生活 45

 アングリッサへ向かった時と同じで途中の街で一泊し、二日掛けてグランザウォールに戻ってきた。

 ただし、こっちを出発した時とは違い豪華な馬車で戻ってきてしまったのでグウェインは何が起きたのかと心配そうに声を掛けてきた。


「すまん、今は時間がないから説明は後で。レレイナはいるかな?」

「申し訳ございません、グウェイン様」

「ディ、ディートリヒ様!? わ、分かりました! すぐにレレイナを連れてまいります!」


 宰相であるディートリヒ様が顔を出すと、グウェインは大慌てで屋敷を飛び出していった。レレイナたちが暮らしている屋敷に向かったのだろう。


「恐らく騎士団は大所帯になりますから、明日の到着になると思います」

「それなら、今日は徹夜で魔法陣の改良をする事になりそうですね」

「……できるのですか?」

「……さあ? 一応、レレイナたちが戻ってきてから鑑定を行いますよ」


 という事で、グウェインが戻ってくるのを待って約5分――血相を変えたグウェインとレレイナが姿を現した。


「も、申し訳ございませんでしたディートリヒ様! 私、何かをしてしまったでしょうか!!」


 ……うん、自分が何かしでかしたと勘違いしているようだ。


「違いますよ、レレイナ様! 魔法陣の改良をお願いするために伺っただけです!」

「……申し訳ございません! 魔法陣の改良はいまだに手を付けておりません! クビですか? 私はクビでしょうかああああぁぁっ!?」

「クビになったら俺が困るからな!」


 突然のクビ発言には俺の方が驚いてしまい間に入った。

 

「……ち、違うんですか?」

「違うからな? 今レレイナさんに抜けられたらマジで辛いから!」

「……本当ですか? 信じていいんですか?」

「いいから。本当に信じていいから」

「……あ、ありがとうございますううううぅぅっ!!」


 泣き出しちゃったよ! そんなに怖かったのかよ! なんかごめんなさいね!


「それでマヒロ様。急ぎで転移魔法陣の改良方法について鑑定をしていただきたいのですがよろしいですか?」

「もちろんです」

「でしたら、私が詳細を二人に伝えておきます」


 アリーシャが説明を買って出てくれたので、俺はすぐに鑑定に入ろうとした。


「……あの、グウェインさん。円はどこにいるんですか?」


 ユリアが小さな声で呟いてきた。

 確かにこの場には円の姿がない。焦り過ぎて今まで気づかなかった。


「今はレベルを上げるためにリコットたちと宿場町に行っていますよ」

「……そうですか」


 明らかに落ち込んでしまったが、今は優先するべき事がある。それに転移魔法陣は宿場町にあるわけだし、その時に説明できればいいかと思いすぐに鑑定を始めた。


「鑑定、転移魔法陣の改良方法」


 レベルが上がった事でバナナを食べなくても十分だったようだ。

 ディスプレイ画面に映し出されたのは、左右に分かれた現在の転移魔法陣と改良後の転移魔法陣。

 削除する部分が赤色で、追加で書き足す部分が青色で示されている。


「……あれ? そういえば、ステータス画面を他の人に見せる方法ってどんなだ?」

「そういえば、私もやった事がないかも」


 今までは全部口頭で伝えてきたし、ユリアもやった事がないと言っている。


「ステータスの開示意志を示せば問題ありませんよ」

「……え、そうなの?」

「はい」


 ……えっと、ディートリヒ様? その言葉、もっと早く教えて欲しかったんですけど?


「それ、スキルの習得方法の時に教えて欲しかったです」

「あ! ……確かに、その通りですね。何か意味があって口頭でお伝えしていると思っていました」


 そもそもの方法を知らなかったんだよ!


「……ま、まあ、過ぎた事を言っていても仕方がありませんね! 今は転移魔法陣の改良を優先いたしましょう!」


 あ、逃げたな、ディートリヒ様。

 しかし、言っている事は間違いないので俺はステータスの開示をこの場にいる人たちに行った。


「……レレイナさん、見て分かりますか?」

「……だいたいは分かります。後は実際に転移魔法陣を見せていただければすぐにでも取り掛かれます」

「それはよかった! 明日には騎士団が到着すると思いますので、すぐに向かいましょう」


 アリーシャから説明を聞いていたからか、グウェインもレレイナさんも厳しい表情になったものの力強く頷いてくれた。

 そんな中、宿場町で円と顔を合わせるだろうユリアだけは心配そうな表情を浮かべていたのだった。

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