第106話:自由とは程遠い異世界生活 43

 初めて騎士団の訓練を見学してから三日が経った。

 会議以降、俺はボーグル子爵のせいもありレベル上げにも行く事ができなかったので毎日のように訓練の見学を行っている。

 どうも殿下が戦争の前にレベル上げを行うとかで、ボーグル子爵が俺の同行を断固として拒否してきたようだ。

 俺としては面倒がなくなったのでありがたい事だったのだが、暇になったのも確かだった。

 というか、シュリーデン国には殿下も行くって事なのか? 危険過ぎると思うのだが、どうなんだろうか。

 ……まあ、行くってなっても警備は厳重になるだろうし、その辺は俺の考える事ではないかな。

 そんな事を考えている間も訓練場ではユリアが隊長たちや騎士団長と訓練を行っている。

 そんな時だった――


「――急報! きゅうほーう! 騎士団は整列してください!」

「何事だ!」

「団長はこちらへお願いします!」


 ……何事だろう。走って来た騎士は血相を変えていたぞ。


「……どうしたんだろうね」

「……分からないな」


 汗を拭いながらこちらに歩いてきたユリアがそう口にする。

 実際に分からないのでこう答える事しかできないのだが、何故かジト目を向けられてしまった。


「な、なんだよ?」

「本当は何か知ってるんじゃないの?」

「マジで知らないって。……まあ、推測を口にする事はできるけど――」

「それを言いなさいよ!」


 ……いや、なんで怒られないといけないんだよ。

 俺の横ではアリーシャもこちらを見ており、何かを期待しているように見える。


「……可能性があるのは二つ。レベル上げに向かった殿下に何かあったか、もしくは――」

「静粛に! 陛下からお言葉がございます!」


 だが、俺が最後まで言い切る前にディートリヒ様の声が訓練場に響き渡った。

 俺の予想が正しければ、すぐに動き出す必要が出てくるが……果たしてどうなるかなぁ。


「先ほど我らの隠密より連絡が入った! シュリーデン国が二度目の戦端を切ったようだ!」


 ……あぁ、やはりそうなったか。

 というか、殿下に何かあったってのはこじつけ感が強かったし、こっちが本命だった。

 ディートリヒ様の説明は続いているが、俺の横でユリアが厳しい表情を浮かべている。

 それはそうだろう。ユリアはまだ騎士団長から同行の許可を貰えていないからだ。

 このまますぐに出発となればユリアは置いていかれる事となり、俺も一人で騎士団のみんなとシュリーデン国へ向かう事になる。

 ……うん、俺としてもユリアだけでも一緒に行きたいかな。気持ちの安定として。

 円はまぁ……グランザウォールに戻ってから確認が必要だが、俺は難しいと思っているから、せめてユリアだけでも。


「さらにもう一つ報告がある! 二度目の開戦から得られた重大な情報として、特級職が最低でも一人は同行しているようだ!」


 ……光也か、新か。どうせ戦争に向かうなら、光也であって欲しいなぁ。新が残ってくれていれば助けられる可能性も高くなるしなぁ。

 光也は……うん、やっぱり俺はあまり関わってなかったからなぁ。円は生徒会長と副会長で付き合いはあっただろうけどなぁ。


「今が好機と見た我々は今から出発する事を決めた! 騎士団長は急ぎ人選を!」

「はっ!」

「編成された騎士も急ぎ準備をするのだ!」

「「「「はっ!」」」」

「一時間後には準備を終えるのだ! 解散!」


 陛下のお言葉が終わると、騎士団は即座に動き出した。

 壁際に立っていた俺たちはどうしたものかと立ち尽くしていると、そこへディートリヒ様が駆け寄って来た。


「マヒロ様たちはこちらへお願いします!」

「待ってください、ディートリヒ様! 私はまだ騎士団長から許可を貰えていないんです!」


 集まるように言われた言葉に声を張り上げたユリアだったが、ディートリヒ様は柔和な笑みを浮かべて口を開いた。


「ご安心ください。コンドウ様にはすでに許可が下りていますよ」

「……え?」

「昨晩、ヴィグル騎士団長から同行の許可でお話をいただいております。ですので、ぜひとも力を貸していただきたいと思っております」


 ギリギリのタイミングだったようだが、ユリアとしては何よりも嬉しい報告だっただろう。

 一瞬だけ動きが止まったが、すぐに体に力が込められて笑みを浮かべた。


「……はい!」


 こうして、俺たちはディートリヒ様について歩き出したのだった。

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