第101話:自由とは程遠い異世界生活 39

 新たに習得方法が分かったスキルを二人に伝えていると、いつの間にか夜遅くになってしまった。

 さすがに陛下は途中で大臣っぽい人に連れて行かれ、ディートリヒ様も何やら小言を言われていた。


「……ふん!」


 その大臣様だが、俺に対しては鼻で笑うような感じを見せながら立ち去っていった。

 ……俺、何かしただろうか。


「申し訳ありません、マヒロ様」

「え? あぁ、別に大丈夫ですよ。いきなり現れた俺が陛下や宰相を独占してましたし」

「彼も悪い人ではないのですが、若い人にはきつく当たる傾向があるのですよ」

「若い人? ……って事は、ディートリヒ様も?」

「……まあ、昔はそうでしたね」


 宰相様にまで突っかかってたのか、あの大臣は。


「いきなり私のような若造が宰相に抜擢されて悔しかったんだと思いますよ」


 そりゃそうだ。見た感じ、50歳とか、それくらいの年齢っぽいしな。


「そういえば、ユリアの指導はどうなっているか分かりますか?」


 今日はレベルスライム討伐とスキルの習得方法鑑定、そこからの魔力枯渇だったので他の事が全く分からない。

 状況を確認するための聞いてみたのだが、さすがは宰相様という事かもね。


「はい。騎士団長からは、すでに隊長クラスとも互角に戦える実力を持っているようですよ」

「おぉ! 隊長クラスって事は、相当強くなってますね。……でもそれって、対人戦もいけるって事ですか?」


 ユリアの一番の問題は対人戦に慣れていない事である。そして、クラスメイトを相手に殺し合いができるかどうか。

 実際に殺し合いができるかどうかの覚悟はその時になってみないと分からない場面も多いだろう。

 しかし、対人戦に慣れるかどうかは今が大事な時である。


「騎士団長からの許可はまだ下りていませんが、だいぶ対人戦もいけるようになっているようですよ」

「そうですか、まだですか……でもまあ、上手くいっているようでよかったです」


 ユリアもまだまだ努力が必要なようだ。

 そういえば、俺は明日以降何をしたらいいのだろうか。


「ディートリヒ様、俺は明日から何をしたらいいんですかね?」


 レベル上げも終わったし、これ以上のバナナを食べて鑑定を行う事も難しい。そうなると俺のやる事がなくなってしまう。

 もし何もなければ騎士団の方へ顔を出してユリアがどのような訓練をしているのかを確認してみたい。


「明日もレベル上げに行かれますか?」

「え? いいんですか?」

「はい。……まあ、今回は殿下も一緒になりますが」

「…………は?」


 いやいや、何を言っているんでしょうか? 陛下じゃないから良いものの……でもないからね! 殿下って何よ、殿下って!


「実は、マヒロ様が北の洞窟に向かった事が殿下の耳に入ったようで、その後の同行を逐一調べていたようなのです。それで、レベルスライムを大量に討伐した事を知ると自分も行きたいのだと言い出したようで」

「……それで、その情報を漏らしたのはどこのどなたなんですかね?」

「…………へ、陛下です」


 ……あの野郎! 心の中だからいいよな、あの野郎! 情報だだ漏れじゃねぇか!


「何をしているんですかねぇ、陛下はぁ」

「本当にすみません。ですが、陛下も内心ではお願いしたいと思っていたはずなのです」

「だからってなし崩し的に一緒に行くってのもどうかと思いますけど……って、お願いしたいと思ってたんですか?」


 別にお願いしてくれたら俺も考えるし、そもそも王命なのだから断れるはずもない。

 それなのに口にしなかったってのは、何か問題があるって事じゃないだろうか。


「実を申しますと、殿下は運が王族にしては低くてレベルスライムと遭遇できなかったのです」

「そうなんですか?」

「はい。そのせいもあってレベルは私よりも低く、その事をずっと気にしていたようなのです」


 ……これ、面倒事じゃない? いやまあ、断れないから行くんだけどさ、面倒事かな?


「……面倒事じゃないですよね? 誰かに恨まれるとかないですよね?」

「それはないと思いますよ。まあ、先ほどの方を除けばですが」

「先ほど乗って……あぁー、陛下を呼びに来たあの大臣様。それにしてもあの大臣様はどれくらいの立ち位置にいる人なんですか?」


 もし殿下に近しい人物なら面倒事からやって来る事になるんだが、どうだろうか。


「……殿下付きの補佐官です」

「…………は?」


 えっと、これは確実に面倒事の方から歩み寄ってきたようです。


 そんな感じで今日一日が終わった。

 ……明日のレベル上げ、行きたくないよ。

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