第99話:自由とは程遠い異世界生活 37

 ディートリヒ様が戻ってくると、続いてアリーシャとユリアが入ってくる。

 向かう途中にディートリヒ様から説明を受けていたのか、アリーシャが魔法鞄からバナナを取り出しながら声を掛けてきた。


「レベル10、おめでとうございます」

「ありがとう、アリーシャ」

「それで……本当にやるんですか?」

「あぁ。時間があるとも限らないしな」


 取り出されたバナナをすぐに口に含んで一気に食べていく。

 ……だが……うーん……おかしいなぁ。


「……うぷっ」

「「「「え?」」」」


 ……この前は七本も食べられたバナナが、三本目に突入した時点で苦しくなってきた。

 そういえば、あれだけ大量に食べていたのって俺くらいだったな。他のみんなは一個とか、多くて二個とかしか食べたなかったもんなぁ。


「……これ……もしかして……レベルで食べられる量が……変わるのかな?」

「さ、さぁ」

「分からないけど……あんまり無理はしないでよね?」

「そうですよ、マヒロ様」

「頬に詰めてまで口に入れても、飲み込まなければ意味がないだろう」


 ……仰る通りです。

 そして、飲み込もうにも何故か胃が受け付けてくれない。普通の食べ物なら入りそうなものなんだが。

 だが、食べ物を無駄にするわけにもいかないぞ!


「っんぐ……っふんぐ……うっぷ……ふぅ…………」

「「「「……」」」」

「…………ぷっはあっ!!」


 ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……た、食べた。

 これで魔力が900増えてなかったら、マジで意味なしだぞ。食べたんだから大丈夫だよな?


「……よ、良かった。合計で1200になった」

「後は五分の間に鑑定を掛けるだけですね」

「早くしなさいよ、桃李!」

「トウリさん、早く!」

「急ぐのだ、マヒロよ!」


 ……心配されていたはずなのだが、食べたら食べたで催促かよ!

 まあ、時間制限もあるし三本目を食べ切るのに時間が掛かったから仕方がないか。


「か、かんて――うぷっ! ……ふぅ。鑑定、スキルの習得方法」


 …………ぁ。


 ※※※※


 ――……うーん、予想通りというか、魔力1200でも足りなかったのかという驚愕というか、半々だな。

 目を覚ましたのはこれも予想通りでディートリヒ様の部屋だった。

 むしろ、俺が魔力枯渇を起こす事を想定して客間的な場所を用意してくれていても良い気がする。

 これではディートリヒ様に申し訳なさ過ぎる。


「……起きました」

「あぁ。良かったです、マヒロ様」

「予想はしてたんで大丈夫ですよ」

「……予想していたんですか?」

「まあ、魔力1200で足りたら苦労はしませんって」

「……魔力が1200もあれば一国を亡ぼせると思いますよ?」


 え、そうなの? それでも判明しないスキルの習得方法ってどうなのよ。

 まあ、神級職じゃないとできない事だから規格外を超える規格外の魔力が必要って事だろう。


「体の方は大丈夫ですか?」

「……はい、問題ないです」


 少し肩を回した程度だが問題はなさそうだ。というか、これで体に支障をきたそうものなら一生やらないと思う。


「今回はどれくらい寝てましたか?」

「五時間程度ですね。今は夜です」

「……本当にすみませんでした!」


 夜って! え、もしかしてアリーシャたち帰っちゃったとか! 俺はどうしたらいいんでしょうか!?


「構いませんよ」

「うぅぅ、本当にすみませんでした。すぐに帰りたいと思いま――」


 ――コンコン。


 急いでベッドから出ようとした俺だったのだが、このタイミングで部屋のドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼します。お声がしましたのでお食事をお持ちしました」

「ありがとうございます」


 執事然とした紳士が胃袋を刺激する美味しそうな食事を運んでくると、ディートリヒ様が対応してテーブルの上に並べられていく。

 ……そういえば、ものすごくお腹が空いているような気がする。いや、空いている!


「失礼します」

「えぇ。……ではマヒロ様、食べましょうか」

「えっ! ……い、いいんですか?」

「もちろんです。そのために用意していただきましたから」

「あ、ありがとうございます!」


 俺は予定通りにベッドから出ると、予定外にそのまま椅子に腰掛ける。


「いただきます!」


 手を合わせて食事を口に運ぶ。

 ……ふぉ……これは……ほほぅ……。


「……めちゃくちゃ美味いですね!」

「それはよかった。そうそう、本日はこちらにそのまま泊っていってくださいね。私は隣の部屋で休みますから」

「ありがとうございます! …………え?」

「アリーシャ様とコンドウ様にも伝えてありますのでご安心くださいね」


 ……俺の知らないうちに、今日の宿泊先が決まっていたようです。

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