第98話:自由とは程遠い異世界生活 36
城に戻った俺たちはレベル上げが上手くいった事を陛下へ報告した。
陛下も非常に喜んでくれたのだが、レベル10という数字にはあまりに納得していなかった。
「ふむ……レベルスライムを二桁以上倒してまだレベル10か。これは確実に神級職であろうな」
俺としては十分な成果なのだが、普通は特級職でもレベル30以上になっていておかしくない数なのだとか。
神級職か……本当にあるのかねぇ。まあ、神って付いているわけだしそうなのかもしれないが……。
「他にも神と名の付いた職業はないんですか?」
「ない。私も聞いた事すらないのぅ」
いないのかい! そうなるとますます信憑性が高くなるじゃないか!
……まあ、俺から見ても規格外過ぎる能力だし、神級職と言われても納得しそうになってしまう。
正直、レベルが上がって魔力が増加しバナナで魔力を強化すれば、俺は一人で一国すら滅ぼせる力を手にできるかもしれない。その方法を鑑定すればいいんだからな。
そんな事はしないが、できるかもしれないという話だ。
スキルの習得方法だってそうだ。俺一人では荷が重いと感じれば、それなりに強い人間のレベル上げに協力し、さらに強力なスキルを習得してもらえばそれなりに戦えるだろう。
魔の森の開拓でアリーシャたちのレベルも上がっている。グランザウォールの戦力という点を見てみても、傍から見れば戦力強化に見えているかもしれない。その危険性を感じたからこそ、俺は陛下へ報告をしたのだから。
「……どうしましたか、マヒロ様?」
「ん? いや、なんでもないです。ちょっとした考え事です」
「まあ、マヒロが変な考えを起こさなければ我としても手は出さんよ」
「変な考えって、怖い事を言いますね」
「その気になれば、みたいな事を考えていたのだろう?」
……よ、読まれてる。
「……まあ、そうですね。でもやりませんよ? 俺は自由にこの世界を堪能したいだけなんですからね」
「その割には魔の森の開拓に手を貸してくれているじゃないか」
「アリーシャたちには世話になりましたからね。それに乗り掛かった舟ですから、ある程度軌道に乗るまでは手を貸しますよ」
その後は本当に自由に旅でもして生活するんだ。
「それも良いさ。じゃが、我の目の届かないところではあまりやり過ぎるなよ?」
「ぅっ! ……わ、分かってますよ」
そんな睨むようにこっちを見ないでもらいたい。
鑑定スキルがあればやり過ぎる、なんて事は絶対にないだろうし安心して欲しいんだがなぁ。
「話の途中で申し訳ありませんがマヒロ様、どうなさいますか?」
「ん? 何か予定があったのか?」
「レベル10になった事で魔力も上がりましたし、もう一度スキルの習得方法を鑑定してみようかと思いまして」
現在の魔力は300ある。レベル10の人間では規格外の数値なのだとか。
賢者であるディートリヒ様がレベル36で魔力700なのを考えると、三倍以上のレベル差があるにもかかわらず数値的には約二倍の差なのだから規格外と言われても納得してしまう。
「レベル4の魔力から考えると約四倍の数値になりました。現状の魔力でバナナを食べれば一本で600、二本で900になって前の鑑定時の魔力を超えるので」
そして、前回と同じ七本のバナナを食べれば魔力は2400となる。
これだけの魔力でスキルの習得方法を鑑定したとなれば……何が出てくるのかは俺でも想像がつかないぞ。
「ふむ……であれば、アリーシャを呼んでバナナを魔法鞄から出してもらうとしよう」
「私が呼んでまいります」
「頼む」
ディートリヒ様が部屋を出てアリーシャを呼びに行った。
その間、俺は陛下と二人きりである。……なんというか、居ずらいんだが。
「……のぅ、マヒロよ」
「……なんでしょうか?」
「お主、ゴーゼフ王を恨んでいないのか?」
「……いきなりの質問ですね」
「そうか? いきなり召喚され、さらに追放されて殺されそうになったのだから恨んでいそうなものだろう?」
まあ、言われてみるとそうなるか。
「最初は恨みましたよ。でも、そんな事を考えていたら死んでしまう環境に追いやられましたからね。生き残ろうと考えていたら、そんな考えは吹き飛んでました。それに、神級職の事がバレていたら俺も操り人形にされていたかもしれませんし、そもそもあんな奴の下で働きたくなかったし、最終的には追放してくれてありがとうって感じですね」
肩を竦めながらそう口にすると、陛下の表情は笑みを浮かべて突然俺の頭を撫でてきた。
「な、なんですか、いきなり?」
「ふふふ。お主は変わっているのだな」
「それ、褒めてないですよね?」
「そうかな?」
……いや、絶対にそうだろう。
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