第96話:自由とは程遠い異世界生活 34

 宿屋に戻ってからじっくり休んだ翌日、俺はディートリヒ様の案内でアングリッサの外に出ている。

 目的は当然ながら北の洞窟にいるというレベルスライムの討伐だ。

 実を言うとディートリヒ様の事は勝手に鑑定させてもらっている。職業が賢者だと言われて気になったのもあるが、本当に賢者だった。

 レベルは35と高い方なのだが、アリーシャのレベル34と比べると差は1しかない。それにもかかわらず魔力の数値に大きな差が生まれていた。

 ディートリヒ様の魔力が600であり、アリーシャの魔力が280。これが特級職と下級職の違いなのかと驚かされてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……と、遠い」

「すみません。もう少しですから、頑張ってください」


 まあ、職業による差に驚かされた以上に、俺は自分の体力のなさに落ち込んでいた。

 ディートリヒ様は表情を崩していないのだが、俺は肩で息をしながらぜぇぜぇはぁはぁ言っている。

 レベルが上がれば体力も上がっていくのかなぁ。これならバナナを食べて走っていけばよかったかも。

 魔の森で走り回っていた時はこれほどの疲労は感じなかったしなぁ。


「見えてきましたよ、マヒロ様」

「……あー……あれ、ですか?」

「はい。……というか、入口が見えるのですか?」

「え? はい、普通に見えてますけど? だって、洞窟の入口、開いてるじゃないですか」


 何を当たり前な事を言っているのだろうか。

 ……そう思っていた俺だが、ディートリヒ様の表情は今なお驚きに染まっている。


「実は、この洞窟の入口には結界が張ってありまして、普段は見えないようになっているんです」

「それじゃあ、今は解除しているんですね」

「……いえ、結界は張ったままです」

「……はい?」

「ですから、結界は張ったままなのです」


 ……いや、だって、見えてるんですけど?


「……おそらく、マヒロ様の鑑定士(神眼)の能力かもしれませんね」

「鑑定士(神眼)の?」

「はい。原理は分かりませんが、視界を誤魔化すような結界は役に立たないかもしれませんね」


 苦笑しながらそう口にしたが、それが本当なら凄いのと同時にマズいのではないかと思う。

 だって、結界に気づかないって事は知らず知らずのうちに危ないところに足を踏み入れている可能性だってあるわけじゃないか。


「……き、気をつけないといけませんね」

「まあ、誰かと一緒にいれば違いに気づく事は容易でしょうから問題はないでしょう」


 簡単に言ってくれちゃってますが、俺としては最善の注意を払う必要がありそうだな。


「少し休んでから入りますか?」

「……それでお願いします」


 到着したものの、非常に疲れたからね。


 一休みの後、俺たちは北の洞窟に足を踏み入れた。

 入口から中を見た感じだと、特段荒れた様子もなくただの洞窟のように見える。

 しかし、よーく観察してみると何かが引きずられたような跡があったり、飛び跳ねたような跡が残っている。

 これがレベルスライムが移動した跡、という事だろうか。


「それではマヒロ様。鑑定をお願いしてもよろしいですか?」

「はい、分かりました」


 おっと、ここで無駄に思考を深めても意味はないか。何せ、俺には鑑定スキルがあるからな。


「鑑定、レベルスライムの居場所」


 ……おや? 意外と近くにいるみたいだな。灯台下暗し的な?


「こっちですね」


 俺は鑑定スキルに従って歩き出す。

 歩き出してから5分ほど経っただろうか、俺は行き止まりに見える場所の壁の前で立ち止まる。


「……ここ、ですか?」

「はい。……やっぱり、ディートリヒ様には見えませんか?」

「見えないとは? ……あ。もしかして、結界ですか?」

「みたいですね。どうやらレベルスライムは結界魔法を使うみたいです」


 おそらくディートリヒ様にはここが行き止まりに見えているのだろう。

 しかし、俺には壁の下の方に小さな穴があるのが見えている。


「ちょっとだけ離れて見ていましょうか」

「分かりました」


 俺たちは何食わぬ顔で引き返して曲がり角を進むと、身を隠して行き止まりを覗き込む。

 すると、しばらくして穴の中から一匹のスライムが姿を現した。

 見た目はあれだ。某ゲームで出てきたようなぷるんと揺れる感じの小さな魔獣だ。

 これなら確かに俺でも倒せそうな気がする。


「……ほ、本当に出てきましたね」

「あれがレベルスライムで間違いないですか?」

「はい。金色のスライム、あれがレベルスライムで間違いありません」

「分かりました。それでは、レベルスライムが出てきた場所を塞ぐように魔法を使ってもらってもいいですか? 逃げ場所をなくしておきたいので」

「分かりました。では――アースロック」


 ディートリヒ様が魔法を放つと、レベルスライムが出てきた穴が土で塞がれた。


『ビギャ!?』

「あとは任せましたよ、マヒロ様」

「はいよ! 絶対に逃がさないからな!」


 飛び出した俺が剣を振り抜く。


『ビ~キャ~』

「……え? 一撃?」


 レベルスライムは何と一撃で倒れてしまった。

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