第93話:自由とは程遠い異世界生活 31
そこからは俺の知り得た情報を伝えていく事になったのだが、すぐに使えそうなスキルは結局出てこなかった。
「最初に仰っていた通り、下位のスキルだけでしたね」
「だが、スキルを後天的に獲得できると分かっただけでもありがたい話じゃて」
「今後は若い騎士で試してみて、成功すれば子供たちの指導へ組み込めれば将来の選択肢が広がるというものですね」
子供たちの選択肢が広がるというのも本音だろうけど、国としては戦力の確保にもつながると言った打算も含まれているんだろうなぁ。……って、そんな事を考えるのは野暮というものかな。
俺が話をしている相手は一国の王様であり、それを支える宰相様だ。打算が含まれるのは当然という事だろう。
「しかし、そう考えると中位や上位のスキルの習得方法も知りたくなってくるのが人の性というものじゃのう」
「そうなると、マヒロ様のレベル上げが最も重要な課題となりますね」
「あー……ブルファングにも弾かれる柔い筋力ですが? それに、経験値も普通より多く必要になるみたいですけど?」
魔の森に近いところに生息しているブルファングが50匹。王都付近に強い魔獣がゴロゴロしているはずもなく、ここでレベル上げをするとなればどれだけの数の魔獣を倒せばいいのだろうか。……うん、鑑定もしたくない。
「となれば、あれじゃな」
「そうですね、あれですね」
「……あれって、なんですか?」
何やら笑いながら『あれ』と口にしている二人を見て、俺は嫌な予感しかしてこない。
「マヒロよ。お主、ちょっくら北の洞窟に行ってくれんか?」
「護衛はこちらから出しますのでご心配なく」
「いやいや! ご心配なくって言われても、戦う手段を持たない人間なんですけど!?」
やっぱりしょうもない方法だったよ! マジで死ぬからな!
「じゃから護衛を出すと言っているじゃろう」
「それに、北の洞窟には危険な魔獣はいないからご安心ください」
「……どれだけの数の魔獣を狩らせようとしているんですか?」
「運が良ければ一匹です。多く狩れるならそれに越した事はありませんが」
「……どういう事ですか?」
たった一匹の魔獣を倒して俺のレベルが上がるとは思えない。というか、経験値の獲得はレベルの高さに比例して上がっている気がする。
そして、レベルが高ければ当然ながら魔獣も強くなるので俺には荷が重いのだ。
「……宰相様、もしや?」
「アリーシャ様は気づかれましたか」
「え? 何? どうしたの?」
当事者の知らないところで勝手に理解し合わないで欲しいんですが?
「魔獣には多くの経験値を持っている個体がいると聞いた事があります。ですが、生息地も不明ですし、その存在自体がおとぎ話とか噂の類ではないかと言われているのですが……」
「アングリッサの北は王家直轄領となっています。立ち入り禁止の区画があるのですが、そこにその魔獣の縄張りがあるのです」
「素晴らしいですね! なるほど、王家の方々はそこでレベル上げを行っているのですね!」
アリーシャはおとぎ話の魔獣が存在している事に興奮しているようだが、王家がその存在を秘匿している魔獣ですよ?
「……その情報、俺たちに伝えても良かったんですか?」
「構わん! 我が言っているのだからな!」
「という事です」
陛下よ、本当に大丈夫なんだろうな。
「ですが、一つ大きな問題もあるのです」
「なんですか?」
「その魔獣、レベルスライムと呼称しているのですが、この魔獣は非常に警戒心が高くてなかなか出てきてくれないのです」
経験値が多いスライムねぇ。何やら某ゲームを思い出させる存在だが……うん、考えるのは止めておこう。
「巣穴もなく、人の気配を見つけては洞窟内を逃げ回っているようなのじゃ」
「そんな相手をどうやって見つけろと?」
「「運任せ」」
「運かよ!? ……って、運?」
そうか、運なのか。
「えぇ、運です。王家の方々は運の数値が比較的高いのであまり苦労はしないのですが、一般的な運の数値は20から10の間がほとんどで大変なのです。私も陛下にお許しを頂き向かった際は苦労しました」
「ディートリヒは運が30と比較的高いのじゃが、それでも苦労したからのう。マヒロの運はどの程度なのじゃ?」
あー……それ、聞きますか? 絶対に驚きますよ? ちょっと、ユリアにアリーシャ。顔を背けないでくれ。
「俺の運の数値は100です」
「そうか! 100か! それは苦労しそうじゃ……のう…………は?」
「……マ、マヒロ、様? 今、100と言いました、か?」
「はい。俺の運の数値は100ですよ?」
「「…………はああああああああぁぁっ!?」」
うんうん、予想通りのリアクションありがとうございます。
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