第92話:自由とは程遠い異世界生活 30

 陛下の部屋に到着すると、当然ながら陛下がいた。

 何か政務を行っているんじゃないかと思っていたのだが、暇なんだろうか。


「おぉっ! マヒロ、目を覚ましたのか!」

「急に倒れてしまってすみませんでした」


 いきなり陛下の前で倒れたわけで、不敬だー! とかならないよな?


「何を言っておるか! 無事でよかったぞ、うんうん!」


 まあ、この陛下ならそんな事は言わないだろうなぁ。……シュリーデン国の王様だと言われそうだけど。


「それで、今回はどうしたのだ? もう少し休んでおいても良かったんだぞ?」


 その部屋はディートリヒ様の部屋なんですが、とは言えなかった。陛下の言葉は王命なのだから。


「陛下。マヒロ様のお話では、一部ではございますがスキルの習得方法が分かったようなのです」

「何!? そ、それは本当か、マヒロよ!」

「ふぁ、ふぁい!」

「へ、陛下! そのように揺さぶられてはマヒロ様が倒れてしまいますよ!」

「お、おぉぉ、すまんかったのう」

「……い、いいえ、大丈夫です」


 肩を掴まれてブンブン前後に揺さぶられたぞ。若干フラフラする。

 ちょうどその時、扉がノックされたのでディートリヒ様が陛下に確認をしてから開いた。


「トウリさん!」

「桃李!」

「アリーシャさんにユリアか。お疲れさ――ぶわああああっ!?」


 二人同時に迫られた上に手を取られたのだが、まだフラフラしていたのでそのまま尻もちをついてしまった。


「あいててて」

「す、すみません、トウリさん!」

「ごめん、桃李! ……その、大丈夫だった?」

「お、おう。問題ない」


 ユリアが手を差し出してくれたので、その手を取って立ち上がる。

 ……へぇ。ユリアの手って、こんなに硬くなってたのか。さすが拳王というべきか、しっかりと鍛錬をしていたって事なのかな。


「……あの、桃李?」

「ん? なんだ?」

「その、手を放して欲しいんだけど……」

「…………ご、ごめん!」


 やっちまったああああっ! 俺、ユリアとはいえ女性の手を意味もなくずっと握るとか、ダメだろう!


「いや、こっちが差し出したんだし、問題ないわ」

「……ありがとう」


 な、なんでそんな照れた感じになってるんですかねえ、ユリアさんようっ!?


「…………トウリさーん? ユリアさーん?」


 そして、横からジト目を向けてくるアリーシャが怖い。何故だ、何故なんだ?


「がははははっ! 愉快じゃのう!」

「はっ! も、申し訳ございませんでした、陛下!」

「よいよい! ……のう、マヒロよ?」

「……お、俺に言われましても」


 これは、さっさと話を戻した方が良さそうだな。


「ゴホン! ……えっと、アリーシャとユリアも話は聞いてるのか?」

「いいえ。私たちはトウリさんが目を覚ましたと聞いたのと、こちらでお待ちになっているとだけ聞いております」

「本当に心配したんだからね? ……それで、何があったの?」

「すまんすまん。呼び出した理由なんだけど……スキルの習得方法が一部だけ分かった」


 …………あれ? 二人共、なんでそんな固まってるの? もっと反応してくれてもいいんだけど?


「……トウリさん! また鑑定を使ったのですか!」

「凝りもせず何してんのよ! まさか、無理やりやらされたんじゃないでしょうね!」

「ち、違うから! そんな怖い事いうなよユリアは!」


 もし本当に無理やりやらされてたら不敬罪になりかねないぞ!


「倒れた時に分かっただけだよ! ……たぶん、上位のスキルはもっと魔力が必要なんだと思う。まだ話してないんだけど、分かったスキルの内容からして下位のスキルだと思うんだ」


 そこから俺は全員に説明を始めた。

 スキル名からどんな効果なのか分かりやすい剣術だったり槍術だったり、基本的なスキルの習得方法だけだ。

 ユリアが持つ闘気スキルや円が持つ魔力回復、レレイナさんの博識といったスキルの習得方法は分からなかった。


「俺が持っている魔力消費半減も分からなかったところを見ると、単純に他のスキルは魔力が足りなかったんだって思ったんです」

「ふむ。その可能性は高そうじゃのう」

「そうですね。自分が持っているからと簡単に習得方法が分かるものではない、という事ですか」

「はい。……過去に剣術や槍術のスキルを後天的に獲得した事例はなかったんですか?」


 基本的なスキルは獲得方法も意外と簡単だったりする。

 剣術スキルだと何千、何万回の素振りを行うとか、剣で魔獣を何百匹倒すとか。槍術や他の戦闘スキルも似たようなものだった。

 国の騎士とかであれば知らないうちにスキルを習得していたなんて事もありそうだと思ったんだが、俺の予想は外れてしまった。


「少なくとも、私は聞いた事がありませんね。そもそも、騎士たちは自分のスキルに合わせて武器を選び鍛錬に励むので、わざわざスキル以外の武器を選ぶ事をしません」

「あー、それもそうですね」

「緊急時に別の武器を使う事はあっても、あくまで緊急時ですから習得に必要な回数の素振りや魔獣討伐をこなすのは難しいかと」


 ディートリヒ様の説明を受けて、俺は納得した。

 騎士が武器を使うという事は、命の危険がある時だと言う事。そんな時に使い慣れていない武器を使用するなんてあり得ない事だもんな。


「じゃが、辺境の村が自衛のためにスキル外の武器を取るとなれば、そんな事もあったかもしれないのう」

「はい。我々の手が届かないところも多いですからね」


 気づかないうちに条件を満たしていたなんて事が、絶対にないとは言い切れないのだ。

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