第90話:自由とは程遠い異世界生活 28

 まあ、予想はしていた事だ。

 戦力が低くなったタイミングで仕掛けるのは定石中の定石。むしろ、他の国が攻めていてくれてるとありがたい。

 ……いいや、今回で言うとそうでもないか。クラスメイトを助ける事を考えると、先に攻められたら捕らえられるか殺される可能性もあるわけだしな。


「そうなると、ユリアの同行を判断する時間もそこまで残されてはいないって事ですかね?」

「そうなりますね。とはいえ、開戦から一日や二日で戦が終わるはずもありませんし、王都陥落を目論むならさらに時間が掛かる事でしょう」

「そうか。……ユリアが覚悟を決めてくれるなら、十分な戦力になるんだけどなぁ」


 クラスメイトと殺し合いをしてほしくないと思う一方で、俺はユリアを戦力だと考えている。円や秋ヶ瀬先生だってそうだ。

 俺が戦えない分みんなに負担を科してしまっているのは申し訳ないと思っている。

 だからこそ、俺にできる事は全て試してみようと考えていた。


「それにしても、陛下やディートリヒ様たちはどのように情報を手に入れているのですか? シュリーデン国までは国を一つ挟んでいますよね?」

「ふふふ、情報源をそうもあっさりと明かす事はできませんよ」


 そりゃそうだと思い、俺はディートリヒ様へ苦笑を返す。

 なるべく多くの情報を得たい。そこから考えられる可能性をいくつも導き出し、最善の鑑定を選択するんだ。

 戦場に降り立ったら命の時間は刻一刻と迫ってくる。現地に着いてから考えるのでは時間が足りないのだ。


「……お主、本当に異世界人か?」

「どうしてですか?」

「いやのう。他の異世界人を見てみるに、お主らがいた世界は平和だったのではないか? 戦とは無縁だったのだろう?」

「……まあ、そうですね。ですが俺は、こういった戦を題材にした物語をよく読んでいたので」

「読むのと体感するのは全く違うであろう?」

「…………はい」


 体感、ねぇ。

 ……俺の場合はブルファング以外でほとんど体感していなんだけなぁ。魔の森では指示するだけで実際に戦ってはいないし。


「……大変な思いをしたんじゃのう」

「……本当について来ていただけるのですか?」


 ……ん? なんだろう、ものすごく勘違いされている気がする。


「もちろん行きますよ」

「そうか。クラスメイトとやらが大事なんだのう」

「あのように言っていましたが、マヒロ様も同郷の者が心配なのですね」

「いや、そうじゃなくて」

「ディートリヒよ! ユリアの指導をしっかりするよう、騎士団長に伝えておくんじゃぞ!」

「心得ました、陛下!」


 なんかもう、いっか。勘違いでユリアの待遇が良くなるなら。

 ……ん? 指導がしっかりするって事は、厳しくなるって事か? ……こっちも気にしないでおこう、うん。


「現状は情報を得ながらまとめている状況です。時間的猶予は多少ありますが、マヒロ様もでき得る限りの準備をよろしくお願いします」

「はい。……あ、それじゃあスキルの習得方法について報告しておきます」


 一旦話の区切りができたとみて、俺はスキル習得について分かっている事を伝える事にした。

 とはいえ、単に魔力が足りないと伝えるだけなのだが。


「そこで、魔力が向上する果物を食べてから試そうと思っていたんです」

「おぉ、構わんよ。やってくれ」

「ありがとうございます。それじゃあ、せっかくですしここでやりましょうか?」

「「……ん?」」

「あ、バナナですね。持ってきていますよ」

「「……持ってきているのか?」」

「はい。やるなら早い方が良いと思っていたので持ってきてもらいました」


 よしよし、これで色々と試す事ができる。


「あ、でも魔力が尽きて倒れたら陛下たちに迷惑が掛かりますよね」

「いや、この目で確かめる事ができるならそちらの方が良い」

「そうですね。何かあった時の対処も万全にできそうですし」

「ありがとうございます。それじゃあアリーシャ」

「はい」


 俺の言葉に合わせて魔法鞄からバナナが取り出された。

 レベル4の俺の魔力は現在80で、一本食べるごとに80増えていく。とりあえず二本食べたところで240まで上昇した。

 これで足りなければ次はさらにたくさん食べてからやろうかな。


「もう少し食べた方が良いのではないですか、トウリさん?」

「えぇー。でも、結構お腹がいっぱいで――」

「時間を掛けるよりかは一度に限界まで食べてしまいましょう」

「いや、だからすでに限界に近い――」

「近いという事はまだ限界ではないのだろう? どんどん食え!」

「……はい」


 陛下に言われてしまえば断れないよなぁ。

 仕方なく俺は追加で五本のバナナを食べ、最終的に640まで魔力を上げてからスキルの習得方法について鑑定を掛けた。

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