第89話:自由とは程遠い異世界生活 27

 さて、色々と寄り道はしたもののようやく今後についての話ができるようになった。


「では、今まではアデルリード国内の話でしたが、これからは……」

「うむ、シュリーデン国について話をしようかのう」


 俺を地球から召喚したあの国は、現在どうなっているのか。

 円やユリアからの情報も古くなっているだろうし、最新の情報はありがたい。


「まず初めに大事な事を一つ。シュリーデン国は周囲の国々に宣戦布告を行いました」

「……は? せ、宣戦布告?」

「はい。現在はシュリーデン国の南に面しているロードグル国へ進軍しているようです」


 ……宣戦布告。そして、すでに進軍している。

 という事は、従軍している中にクラスメイトもいる可能性があるな。


「……という事は、王都の守りが薄くなっているって事ですね」

「……のう、マヒロ。お主は仲間を殺す事になっても構わないのか?」


 まあ、そうなるよな。俺の発言は明らかに仲間と戦う……最悪の場合は殺す事になるわけだし。


「うーん……構わないわけじゃないですが、別に仲良くしていた人もそこまでいませんから」

「……そうなのか?」

「はい。まあ、できれば避けたいし、避けられるよう全力で取り組みますが、俺にとって大事なのは自分の命ですからね。それは誰もが同じだと思いますよ?」


 秋ヶ瀬先生はそうじゃないみたいだけど。

 ……ん? そう考えると、俺は自分と先生を守る必要があるのかな?


「薄情な奴じゃのう」

「えぇー。でしたら、陛下の求める答えって何なんですか?」

「そんなものはない」


 ……えぇー。


「じゃが、迷いのある者よりかは頼りになるというものじゃな」

「……ユリア、乗り越えてくれるかなぁ」

「マドカさんもですよ、トウリさん」

「あぁ、そうだったな」

「マドカというのは、もう一人の特級職かな?」

「はい。マドカ・ヤチヨです」

「ヤチヨじゃな。そちらはどうなのじゃ?」

「あー……正直、ユリア以上に迷っていますね」


 円の中では助けるというのが大前提であり、殺す事はもちろんだが戦う事すら考えていなかったように見えた。

 転移魔法陣を改良してシュリーデン国へ攻め入るのがいつになるかにもよるが、円がクラスメイトと戦う覚悟を得るのは時間が掛かりそうだ。


「ふむ、そうか。であるなら、やはりコンドウに期待するしかなさそうじゃな」

「シュリーデン国に特級職はいないのですか?」

「いるにはいるが……どうも異世界人の方がステータスの伸びは高いようなのじゃ」

「つまり、特級職同士がぶつかるとなると、この世界の特級職よりも異世界人の特級職の方が強いという事ですか?」

「その通りです」


 俺の問いに対しては陛下ではなくディートリヒ様が答えてくれた。


「実を申しますと、私は特級職の賢者なのです」

「賢者? という事は、円と同じですね」

「なんと! ヤチヨ様は賢者なのですか!」

「は、はい」


 ん? どうしてそこまで驚いているのだろう。

 もしかして、さっきの話から同じ賢者同士がぶつかると勝てないと思っているのだろうか。


「……一国に賢者が二人ですか」

「うむむ、この事実は隠さねばならんかもしれないな」

「どうしたんですか?」


 俺とアリーシャは顔を見合わせて首を傾げている。


「特級職自体が珍しいというのもありますが、同じ職業の特級職が揃うとさらに力を増すと言われています」

「力を増す? それは、お互いに何かしらの力が作用するとか?」

「我らも聞いた話だからのう、事実は分からん。じゃが、賢者がいるのであれば試してみる価値はありそうじゃな」

「試すって……そうなると、円をシュリーデン国に――」

「それはない。試すにしても国内で魔獣を討伐する時とかになるであろうな」


 ですよねー。いきなり危険を冒すわけにはいかないもんな。


「そうそう、マヒロ様。転移魔法陣の改良とシュリーデン国への進軍についてですが」


 おっと、そこが本題だったな。

 しかし、この話が出てきたという事はすでに日程は決まっているという事か。


「先ほども申しましたが、シュリーデン国はロードグル国へ進軍しております。ですので、従軍部隊が帰還する前に事へ当たりたいと思います」


 ……おぉぅ。これ、あまり時間がない感じだなぁ。

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