第88話:自由とは程遠い異世界生活 26
その後、俺が離れる事で魔獣を掃討した区画の森の伐採、及び管理と維持をお願いしていると伝えて魔の森の開拓状況の説明を終わった。
俺としては普通の生活だったのだが、まさかこれほど驚かれるとは思わなかった。……これからは、もっとゆっくり事を運んでもよさそうだな。
「そうそう、先日そちらに派遣したマグワイヤ家の三女はどうじゃ?」
「レレイナさんですか? とても役に立ってくれていますし、助かっています」
「それは良かったです。マグワイヤ家は魔法師の名門家ですからね」
……おや? 陛下もディートリヒ様も、レレイナさんが疎まれていた事を知らないのだろうか? ニコニコしながら話を終わらせてしまった。
うーん、これはレレイナさんのためにも事実を伝えるべきだろうか。
「……まあ、マグワイヤ家の方々はそう思っていない人材を遣わした可能性もありますけどね」
ぼそりと呟かれた俺の言葉に、ニコニコしていた二人はピタリと動きを止めてこちらに視線を向けてきた。
「ちょっと、トウリさん!」
「ん? あー、ごめん。レレイナさんがそんな事を言ってたからつい。すみません、今のは気にしないでください。それじゃあ、これからの事でしたよね」
「ちょっと待ってください、マヒロ様! ……今の話、本当なのですか?」
困惑しているような顔でディートリヒ様が問い掛けてくる。
陛下からは何も言ってこないが、事実を口にしろと言わんばかりの雰囲気が伝わってくる。
「……あくまでも、レレイナさん本人が感じた所感です。事実かどうかは分かりませんがいいですか?」
「構いません。王命でございますから」
「分かりました」
そして、俺はレレイナさんが口にした内容を包み隠さず二人へ報告した。
俺がレレイナさんの所感だと前置きをしたのには理由がある。
本人は自分が役立たずだと思っていたようだが、魔の森の開拓を進めるにはレレイナさんという人選は素晴らしいの一言に尽きるからだ。
疎まれていた、グランザウォール行きの王命にがっかりしていたから自分が選ばれたと言っていたが、もしもマグワイヤ家の当主がレレイナさんなら役に立つと白羽の矢を立てていたのなら、話は大きく変わってきてしまう。
たまたま素晴らしい人選になったのか、そうでないのか。その点も踏まえて俺は報告したのだ。
「……なるほどのう。レレイナがそのように申しておったか」
「確かに、彼女の言葉だけで全てを決める事はできませんね」
「はい。王命に対してしっかりと人選したのか、それとも王命が気に食わなかったから疎まれているレレイナさんの処分にちょうどいいと人選したのか。その違いで大きく話は変わりますよね?」
最初にディートリヒ様が口にした通り、これは王命なのだ。
結果としてレレイナさんは役に立っているので問題ないとする事もできるだろうが、マグワイヤ家が王命に対して適切ば人選をしていなかったとなれば問題行動と取られても仕方がない。
大げさな言い方をすると、これもまた謀反の気配あり取られかねないのだ。
「俺にはその辺りの事実を調べる術はありません。勝手を言っている事は理解していますが、レレイナさんのためにも事実を確認したうえで、マグワイヤ家へは対応をお願いします」
王命が成された場合、そちらに対して褒美なりなんなりあるだろうと俺は思いそう口にした。
ディートリヒ様は俺の意図を理解したのか大きく頷いてくれた。
「成果を報告するのはまだまだ先になるはずですから、その間に調べてみましょう。もし王命に逆らってしっかりとした人選をせずに彼女が選ばれたとなれば、相応の処罰も必要ですからね」
「もし処罰となっても、レレイナさんは取り上げないでくださいね? 本当に役に立ってくれていますから。たぶん、彼女じゃないと無理だと思いますし」
そこに関しては念を押しておく。
レレイナさんの博識スキルは俺の鑑定士(神眼)に近い規格外さを持っている気がする。
知識さえあれば、それに対して答えを導き出す事もできると思っているからだ。
鑑定士(神眼)の場合は知識がなくても鑑定スキルが答えを導き出してくれるため、それの劣化版と考えればいいかもしれない。
……あれ? そう考えると、王都からマジで優秀な人材をグランザウォールに送ってもらってない? 引き抜いたわけじゃないからいいよね?
「はい。そちらに関してはマヒロ様やアリーシャ様に依存がなければ連れ戻すなどという事は致しませんよ」
「ありがとうございます」
……うん。博識スキルに関しては黙っておこう。知っているかもしれないけど、俺から可能性の話をするのは間違っている気がするからね!
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