第91話:自由とは程遠い異世界生活 29

 ――……ぅん……あれ?


「……うん。どこだろう、ここは?」


 目を覚ました俺は見た事のない純白の美しい天井を見つめながら疑問を口にする。

 体を起こそうと腕に力を込めると、横になっている場所が深く沈み込む。とても柔らかいベッドの上に寝かされていたようだ。


「うーん…………あぁ、そうか。俺、魔力を使い切ったんだな」


 魔力が640あっても枯渇とか、どれだけ必要になるんだよ、スキルの習得方法について。

 だが、収穫がなかったのかと聞かれるとそうではない。


「……どれくらい寝ていたんだろうか」


 そんな事を考えていると、俺が寝かされている部屋のドアが開かれた。


「おや? 目を覚ましたのですね」

「ディートリヒ様? ……も、もしかしてここって!」

「えぇ。私の部屋です」

「も、もももも、申し訳ございません! すぐに出て行きます!」


 さすがに宰相様の部屋に、しかもベッドに寝かせてもらっていたとは予想外だ!

 慌ててベッドを下りた俺だったが――


「あ、あれ?」

「おっと!」


 手に持っていた水差しとグラスをテーブルに置いた直後には俺の腕を掴み支えてくれたディートリヒ様。

 ……よろけたからといって、今のは速すぎないか?


「……すみません、ディートリヒ様」

「構いませんよ。それよりも、ゆっくり休んでください。こちらが無茶をさせたのですから」

「……ありがとうございます。で、でも、せめてソファの方でお願いします!」

「分かりました」


 心配そうにこちらを覗き込んでいたディートリヒ様だが、最後には苦笑を浮かべて肩を貸してくれた。

 そのままソファに移動すると、水を入れたグラスを前に置いてくれた。


「喉も乾いているでしょう?」

「ありがとうございます。……あの、アリーシャは?」


 この場にいるのはディートリヒ様のみ。まあ、自室なのだから当然と言えば当然なのだが、まずは居場所と言うか無事を確認しておきたい。


「アリーシャ様はコンドウ様のところへ向かいました。目覚めるまでいてもいいと伝えたのですが、遠慮されたようです」


 それはそうでしょうとも。相手は宰相様ですよ? その自室ですよ?


「それはそうとマヒロ様」

「どうしましたか?」


 突然居住まいを正したディートリヒ様だったが、頭を下げてきた時にはさすがに驚いた。


「ちょっと、ディートリヒ様!?」

「私たちの先走りのせいであなたを危険に晒してしまいました、申し訳ございません!」

「いやいや! これは俺の役目ですし、こうなる事は予想してましたから気にしないでください!」


 慌てて顔を上げるよう口にすると、ディートリヒ様は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「それに、俺なんて最初はさらに少ない魔力で試そうとしていたんですよ? 何回魔力枯渇になるつもりなんだって話ですよ! だから、大量の魔力で一気に試せたのは俺にとってもありがたい状況だったんですよ!」

「……全く。あなたと言う人は。ありがとうございます」


 まだ若いだろうに、とても良い人だよなぁ。俺みたいな異世界人にも優しいし、ユリアにも手を差し伸べていたし、アリーシャにも自分が立場的に上のはずなのに丁寧な対応をしている。

 ……この人になら、まずは打ち明けてもいいだろう。


「そうそう、ディートリヒ様。スキルの習得方法についてなんですが」

「えぇ。時間が掛かっても、まずはマヒロ様のレベル上げを重点的に行ってから――」

「いえ、違うんです」

「ん? どうしたのですか?」

「一部ですが分かったんですよ――スキルの習得方法が」

「……え?」


 そりゃそうだよねー。固まっちゃうよねー。

 失敗したものとばかり思っていたものが、実は一部とはいえ成功していたんだもんねー。


「……そ、それは本当なのですか! マヒロ様!」

「は、はい。ですから、落ち着いてくれませんか?」

「はっ! ……も、申し訳ございません」


 いつでも冷静だと思っていたディートリヒ様が体を乗り出してまで確認を求めてくるとは、俺も驚いてしまったよ。


「この場でお話ししましょうか? それとも、陛下を交えて?」

「……そうですね。陛下を交えてにいたしましょう。ですが、マヒロ様の体調は?」

「俺は大丈夫ですよ。お早い方がいいでしょうからね」

「分かりました。では、最初にご案内した部屋へお連れいたします。アリーシャ様にはこちらから先触れを出しておきましょう」


 その後、ディートリヒ様が先触れを走らせてから俺たちは移動を開始した。

 ……さて、習得方法が分かったスキルは本当に一部だと思うが、これがどれほど役に立つのか。

 判断は陛下に任せるとしようかな。

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