第87話:自由とは程遠い異世界生活 25

 翌日からはユリアが騎士団の訓練に参加し、俺とアリーシャはディートリヒ様とこれからについて話し合う事になっている。

 前日に言われた通り衛兵にも話は通っておりすぐに登城する事ができたのだが、まさかの人物の出迎えに俺たちは驚かされてしまう。


「お待ちしておりました、皆様」

「わ、わざわざ宰相様がお出迎えとは、感謝いたします」


 やはり、ディートリヒ様は宰相だったようだ


「構いませんよ。それと、コンドウ様は後ろに控えているのは騎士が騎士団の方へご案内します」

「フェミー・ルッコラと申します」


 女性騎士のフェミー様はユリアに頭を下げた。


「いえ! こちらこそよろしくお願いします!」

「では、コンドウ様はこちらへ」

「分かりました。……それじゃあ、また後でね」

「おう。頑張ってこいよ」


 少しばかり不安そうなユリアを、俺はできるだけ笑顔で見送る事にした。


「それでは、私たちはこちらです」


 その後はディートリヒ様の案内でユリアとは逆側へ歩き出し、一つの部屋へ通された。

 そこは綺麗に整理整頓された一室で、置かれている家具には埃一つない。

 誰かの書斎だろうかと思っていると、奥につながるドアから予想外の人物が姿を現した。


「「へ、陛下!?」」

「ふははははっ! どうだディートリヒ、驚かすのも面白いだろう!」

「陛下。お戯れもその辺にしておいてくれませんか?」

「なんじゃ、つまらんのう」


 なんだかものすごく疲れたような表情でディートリヒ様が陛下を諭しているのだが……この状況、いったいどういう事だろうか?

 横目でアリーシャを見てみても、こちらも理解不能といった顔をしている。


「申し訳ありません。アリーシャ様、マヒロ様」

「いえ、その、俺たちの事は気にしないでください。それよりも、どうして陛下が?」

「どうしても何も、ここは我の部屋だぞ?」

「「……はい?」」


 なるほど。この状況の説明を求めるならばもう一人の人物に問い掛けるのが正解のようだ。


「……ディートリヒ様?」

「本当に申し訳ありません。話し合いには陛下も同席すると我がままを申されまして」

「我がままとは人聞きが悪いではないか」

「我がままなのですから文句を言わないでください!」


 ……あれ? この人、本当に昨日の陛下なの? 態度も雰囲気も、何もかもが別人のように見えるんだけど?


「驚かれているようですが、こちらが本来の陛下でございます」

「という事は、昨日の姿は演じておられたと?」

「ディートリヒがの、威厳を見せるためにと強要するのじゃよ」

「必要な事ですから仕方がありません! むしろ、本来であればここでもそうしていただかなければならないのですよ!」

「時すでに遅しじゃ、諦めよ」

「……はああぁぁぁぁ」


 ディートリヒ様、苦労されているんだなぁ。


「……まあ、気にしていても仕方がありませんね。話し合いを始めましょうか」

「あの、お疲れ様です、ディートリヒ様」

「……ありがとうございます、マヒロ様」

「む? お主ら、何を意気投合しておるのじゃ?」


 何やら陛下が寂しそうにこちらを見ているが、気にしないでおこう。問題があればディートリヒ様が指摘してくれるだろうし、話し合いの方が大事だからな。

 ……こら、アリーシャ。そんな怖々とこちらを見ないの!


「まずは魔の森の開拓状況についてです。先日グウェイン様から報告を受けましたが、進捗があればで構いません」

「あ、ありました」

「「この短期間で!?」」


 あれ? そんなに短かったっけ……あー、そっか。グウェインが報告してから三日くらいしか経ってないんだっけ。

 それで魔の森の開拓が進んでるってなったら、そりゃ驚くか。


「そこまで大きな変化ではありませんよ? 開拓地に面している森の中を巡回している魔獣の掃討くらいですから」

「そ、それでも相当な成果ですよ?」

「ちなみに、魔獣の名を聞いてもよいか?」

「はい。ジャッジオーガ、ポイズンスネイク、ギガントラット……」


 俺が名前を挙げていくと、二人は徐々に顔を青ざめさせていく。

 最終的には顔を両手で覆ってしまったのだが、何か問題でもあっただろうか?


「……どれもこれも、軍を動かして討伐する様な魔獣じゃないですか」

「……それをここ数日で討伐……いや、掃討か。……恐ろしいのう」

「えぇっ!? で、でも、これは国のために行っている事であって、別に戦力向上とかそういう事じゃないですよ!」


 恐ろしいって、まさか謀反とか言わないよな!?


「安心せい、そういう事ではないからな。単純に驚いただけじゃよ」

「しかし、グランザウォールの者たちはそれほどに強くなっているのですね」

「確かにレベルは上がってますが、皆が一時的に能力を向上させる果物を食べていますからね。そのおかげです」

「そうじゃ! その果物じゃ! アリーシャから実物を見せてもらい、ディートリヒが食べてみたが……あんなものがあるとはのう」

「私も自らで確かめたとはいえ、なかなかに信じがたいものでしたね」


 ……試してもらったのはありがたいのだが、まさか宰相であるディートリヒ様がその身で試したのかよ! 陛下、ちょっとは考えた人選をお願いしますね!

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