第67話:自由とは程遠い異世界生活 7

 アリーシャの屋敷に移動した俺たちは、応接室でレレイナさんをもてなしていた……はずなのだが。


「あ、ああああ、あの! このようなもてなし、私には必要ありません!」

「いえ、王都からご足労頂きましたし、これくらいは」

「私なんかにそのような事、本当に申し訳ありません! 本当に結構ですから~!」

「いえいえ、そのような事を言わないでください」


 応接室に通されてからすぐに、アリーシャとレレイナさんの謎の攻防が続いているのだ。

 必要ないと言っているのだからアリーシャも引けばいいものを、何故か頑なにもてなそうとしている。

 俺が疑問に思っていると、こう言うものなのだとグウェインが教えてくれた。


「王都から来た人ですからね。ここでもてなしをせず、戻った時に酷い扱いを受けたとか言われたら、責任はこちらにのしかかってきますから」

「そんな事もあるんですか?」

「人によってはね。こうして下手に出ているのもわざとって可能性もあるから」


 王都には腹芸の上手な人が多いようだ。

 だが、レレイナさんに関して言えば腹芸が上手な人には全く見えない。本当に断っているように思える。

 ……これ、鑑定で確認できないのかな。


「……鑑定、レレイナ・マグワイヤの状態」

「トウリ?」


 俺の呟きを聞いていたグウェインが声を掛けてきたが、俺は人差し指を立てて黙っているように伝える。

 意図を察したのかグウェインもそれ以上は声を掛ける事なく、俺の様子をただ見つめていた。


「……あー、うん。本当に断っているだけみたいだよ。それに、自分の事を卑下している状態みたい」

「それ、どういう状態なの?」

「俺に言われてもなぁ。……それにさあ、ちょっとおかしくない?」

「何が?」


 俺はレレイナさんの周囲に目を向ける。

 王都からやって来たという割には同行者が少ない。御者を務めていた老執事と見られる男性と、メイド服を着た少女が一人だけ。

 この場合、主はレレイナさんで間違いないはずだが、もてなしを断るという態度に間違いがあれば老執事が間にでも入ってあげるべきじゃないかな。

 だが、その老執事のこのような場に慣れていないのか表情が明らかにオロオロしているように見えてならない。メイドに至っては緊張して固まってしまっている。


「……アリーシャ」

「どうしましたか、トウリさん?」

「その辺で止めておきましょう」


 というわけで、俺が間に入ることにした。

 俺は間に入れる立場にないのだが、このままでは話が進まないと思ったからだ。


「ですが……」

「あの! ほ、本当に、結構ですから! 紅茶だけで、ありがたいですから!」

「レレイナさんの言葉は本音ですよ。嘘ではないみたいですから」


 確信を持った感じで俺が口にすると、アリーシャは少しだけ迷ったもののすぐに持っていた高級なお茶菓子を下げてしまった。


「はあぁぁ……あの、ありがとうございました」

「いえいえ、それでは領主様とお話をされてください」

「は、はひっ! ……はい」


 まさか返事で噛むとは思わなかったが、これでようやく話が進んでくれる。

 ……まあ、俺としてはさっきの鑑定で気になる文言を見つけてしまったので、少しだけレレイナさんの助けになりたいと思っちゃったんだけどね。

 戻ってきたアリーシャがレレイナさんの向かいに腰掛けると、話が始まった。


「あ、改めまして、私は王都から遣わされましたレレイナ・マグワイヤと申します。今回は魔の森の開拓への尽力と共に、シュリーデン国が秘密裏に設置していった転移魔法陣の解析の任を受けて参上いたしました」


 おぉ、落ち着いてくれれば普通に話ができるではないか。


「領主のアリーシャ・ヤマトと申します。……あの、一つよろしいでしょうか?」

「は、はい。何でしょうか?」


 そう、ここでアリーシャが質問してくれる内容で俺の疑問は解消されるかもしれない。


「私は陛下から、魔法に詳しい人材を派遣する、としか聞いておりません。そのお言葉から転移魔法陣の解析が主な目的だと思っていたのですが、違うのですか?」

「……え、え? そ、そうなんですか?」

「レレイナ様は、なんと言われてグランザウォールへ?」

「えっと、私は、その……」


 ありゃりゃ、また混乱してしまったみたいだ。レレイナさんが慌て始めたよ。


「アリーシャ様、失礼を承知でわたくしからご説明してもよろしいでしょうか?」


 すると、ずっと心配そうにレレイナさんを見つめていた老執事が声を掛けてきた。


「セバスさ~ん!」

「構いませんよ、お願いします」


 涙目になりながらレレイナさんがセバスさんと呼ばれた男性を見つめ、アリーシャが提案を許可する。


「レレイナ様は、陛下から転移魔法陣の解析を依頼されておりますが、どちらかといえばそちらはついでのようでございます」

「解析がついでですか? では、主な目的というのは?」

「はい。陛下からは――グランザウォールに所在を移し、そこで魔の森開拓に尽力しなさい、というものです」

「……所在を、移す? え、ということは、レレイナ様は?」

「本日から、お世話になるのですううううううううぅぅ~!」


 レレイナさんの状態説明にはこう記されていた。


【王命により王都から追い出されてしまい、非常に落胆している】と。

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