第66話:自由とは程遠い異世界生活 6
ユリアとの会話の後、俺はすぐにアリーシャから呼び出された。
その理由は分かっている。王都からやってくるという人物の到着だろう。
すぐに魔の森とは逆側、北門に向かい出迎えを整える。
俺が行く意味があるのかと聞いてみたが、どうやら王様には本当に全てを報告しているようで、やってくる人にも俺の事情は伝わっているらしい。
さて、王様という雲の上の人物に存在がバレたのだが、どのように動くのやら……対応次第では、こちらも色々と考えなければならないかもしれない。
「あっ! 馬車が見えたみたいですよ、皆さん!」
そして、この場で一番興奮しているのが一番の年上である先生ってのはどうかと思う。もう少し落ち着いてくれないだろうか。
しかし、馬車ねぇ。遠目にしか見えないけど、特段豪華でも特別な感じにも見えない、普通の馬車……な気がする。
馬車なんて見た事もないし、何が普通なのか分からないからな。
「普通の馬車ですね」
「そうだね、姉さん」
だが、アリーシャやグウェインがポロリと口にしたので、どうやら俺の感覚は間違っていないようだ。
「普通ではダメなんですか?」
「いいえ、ダメってわけではないんです。ですが、王都から遣わされた方はたいていの場合、豪奢な馬車でやって来るものですから」
「今までもそうだったのかしら?」
「そうだね。まあ、王都に力があると地方に見せつけるためでもあるから仕方がないんだけど」
円の質問にアリーシャが、ユリアの質問にグウェインが答えている。
「ふむ、ここに来るまでに何かあったのだろうか」
「かもしれませんね」
「何かって……魔獣に襲われたとか?」
「はい、トウリ様。整備されている街道でも、少ないとはいえ魔獣は存在します。確率は低いですが、その可能性もあるかと」
ライアンさんとヴィルさんが揃ってそう口にする。
まあ、馬車が豪奢なものだったら目立つし、魔獣にも分かりやすいってことかも?
「それでは、お出迎えいたしましょう!」
ここで議論していても意味がないので、俺たちはゆっくりと走る馬車が到着するのを待つことにした。
北門の扉が音を立てながら開かれ、一台の馬車が中に入ってくる。
遠目に見た感じでは普通の馬車に見えたのだが……うん、近くで見ても変わらないか。何か特別な仕掛けでも意匠でもあるかと思ったが、全くない。
本当に魔獣に襲われていたとしたら、遣わされた人は大丈夫なのだろうか。
そんな心配をよそに、中から出てきた人は俺の予想外の反応を示してくれた。
「お、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした~!」
「「「「「「「「……え?」」」」」」」」
この場にいる全員が予想外だったようで、全く同じ反応をしている。
「あ、あの! 私、王都から遣わされました、レレイナ・マグワイヤと申します~! 以後、お見知りおきをです~!」
……えっと、なんだろう、このドッと力抜けるような感じの女性は。
まさか、この人が魔法に詳しい人材じゃ、ないよな?
「……えっと、レレイナ様? あなたが、その、魔法について教えてくださる魔法師の方でしょうか?」
「は、はい! あの、こんな感じですみませ~ん! ですが、これでも精一杯やらせていただきます~! よろしくお願いいたします~!」
そして、声を掛けたアリーシャに対して何度も、本当に何度も頭を下げている。
王都から遣わされたのだから、立場的にはレレイナさんの方が上だと思う。アリーシャも粗相がないようにと念を押していたから、間違いないはずだ。
それなのに頭を下げるって……この人、本当に大丈夫なんだろうか。
「……うん、分かりました。私はグランザウォールの領主でアリーシャ・ヤマトと申します。領主の館にご案内いたしますので、こちらへ」
「あ、ありがとうございます~!」
先ほどから何故か泣きそうな顔で謝罪だったり、お礼を口にしている。
もしかすると、本当に魔獣に襲われて怖い思いをしながらも、馬車を調達してようやく到着した、的な感じなのだろうか。
「ヴィル」
「はっ!」
「念のためだ、アリーシャ様の護衛には私もついていこう」
「かしこまりました」
前を進むアリーシャに追いつこうとヴィルさんがやや駆け足で向かうと、ガシャガシャという鎧の音に驚いたのかレレイナさんがビクッと体を震わせた。
「……ラ、ライアンさん。何かあるんですか?」
「正直、分かりません。単純にあのような性格なのか、何かを企んで演技をしているのか。前者であれば取り越し苦労で問題はありませんが、後者だった場合の護衛です」
「王都とグランザウォールは、仲が悪いとか?」
「いいえ、そんな事はございません。陛下はグランザウォールの重要性を理解しております。ですが、楽をして利益を得たいと思う輩も存在しているという事です」
うーん、アリーシャは王様にしか伝えていないと言っていたけど、何かしらで情報が漏れたのか? もしそうだとしたら、鑑定士(神眼)を使った無理難題を押し付けられる可能性もあるかも?
「……まあ、レレイナさんの出方次第って事ですね」
「はい。何もない事を祈りますが、トウリ様もお気を付けください」
「分かりました。ご忠告、ありがとうございます」
そんな会話をしながら、俺たちもアリーシャたちについていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます