第68話:自由とは程遠い異世界生活 8

 まあ、王都って聞けば誰でも発展していて、生活基盤もしっかりしていて、仕事にありつければ何不自由なく生活できると思うはずだ。

 グランザウォールでも特段困った事は起きていないのだが、きっと王都は俺が思っているよりも素晴らしい場所なのだろう。


「えっと、移住されるという事ですよね?」

「……はい」

「その、ご家族とかは?」

「……いません。いえ、いるにはいるのですが、私は疎まれていますから」

「では、ここにいらっしゃる方々で?」

「……そうなります~」


 返答するごとにレレイナさんの背中がどんどんと丸まってしまう。

 その様子をセバスさんとメイドがやはり心配そうに見つめていた。


「……では、私の方ですぐに生活ができる屋敷を手配いたしましょう」

「……ありがとう…………え?」

「グウェイン、どうですか?」

「そうだな……ここから西、二つ先にある屋敷なんてどうかな。少し汚れているけど、今から掃除をすれば昼前には終わると思うよ」

「では、そこを第一候補にするとして、他にもいくつか――」

「あ、あの!」


 ヤマト姉弟が勝手に話を進めていると、我に返ったレレイナさんが声をあげた。


「「どうしましたか?」」

「そ、その、本当に、いいのですか?」

「いいも何も、王命ですし」

「そうですね。僕たちに断るという選択肢はありませんし、何より移住者を無下にすることもできませんしね」

「……あ、ありがとう、ございます」

「よかったですね、お嬢様」

「お嬢様~! よかったです~!」


 レレイナさんが納得したのかどうかはさておき、セバスさんとメイドが泣きながら声を掛けていた。

 ……おいおい、この人たち、マジで何があったんだよ。


「あの、失礼かもしれませんが……」

「は、はい! なんでしょうか!」


 気になってしまった俺はレレイナさんに声を掛けた。


「その、どうしてそこまで警戒していたんですか? 王都から遣わされたってだけで、ある意味では高い地位にいるってことだと思います。それなのにアリーシャたちの事を警戒していたようだし、気になりまして」

「あ……えっと、その……」

「いえ、言いたくなければ別に構いません。ただ、気になっただけですから」


 ものすごく気まずい雰囲気になってしまったので俺から引いて下がろうとしたのだが、レレイナさんは突然腕を掴んできた。


「……レレイナさん?」

「あ! ……す、すみません! でも……いいえ、聞いていただけますか?」

「大丈夫なんですか?」

「はい。ここで生活をするのですから、皆様にも聞いておいてもらいたいと思います」


 そこからはレレイナさんの告白が始まった。

 まあ、家族から疎まれていると聞いた時点で何となく分かっていた事だが……レレイナさんは家族から追放された感じらしい。

 なんでも、マグワイヤ家は魔法師の名門のようで、さらにいえば貴族家なのだとか。

 その中でレレイナさんは三女として生まれたのだが、なんでも魔法師としては中の上くらいの魔力しか持たなかったのだとか。


「中の上でも、十分な魔力なのでは?」

「そうなんですが、マグワイヤ家では上位の魔力を保有する者しか優遇されませんので」

「そうなんですね」


 それ故に、レレイナさんは少ない魔力を補うために魔法に関する知識を付けることにした。

 そして、知識だけではマグワイヤ家の誰よりも詳しくなれたのだと言っていたのだが、それがマズかったらしい。


「親もそうですが、兄様も姉様も私が邪魔になったようでした」

「それで、辺境にあるグランザウォールへ追いやられたって事ですか?」

「……はい。王命とあって、父上は誉だと思いその任を受けたのですが、行き先がグランザウォールだと聞いて落胆していました。そこで、知識だけは豊富な私が使者として選ばれたというわけです」

「そうだったんですね。……では、レレイナさんは知識はとても豊富だということですね」

「はい。知識だけは豊富なのですが、役に立てるかどうか……」


 ……ん? なんだか、俺とレレイナさんの言い方に違和感があったような?


「知識だけが豊富でも、魔力がなければ何もできません。陛下から魔の森の開拓に力を貸すよう言われていますが、それもどこまで力になれるか……」


 あぁ、なるほど。レレイナさんは、知識だけでは何もできないと思い込まされているのか。まあ、知識があるだけとか家で言われ続けてたらそうもなるかな。

 だが、レレイナさんの知識は俺にとってはとてもありがたいものである。

 鑑定士(神眼)では答えを示してくれることもあるが、実際に俺がやろうとしてもできなさそうなことが多い。

 魔法陣の改良がいい例である。

 やり方も示してくれているが、その理由がさっぱり分からん。丁寧に説明が表示されるのだが、あれがこーなってそうなり、あっちがあーなってこうなる、とか意味が分からん。

 それは俺以外の魔法師も同様で、口で伝えても首を捻るだけだった。転移魔法陣とはそれだけ複雑な魔法陣だという事でもある。

 レレイナさんの知識がどれほどのものかはまだ分からないけど、口で言って理解できるだけでも助かるので、そうあって欲しいものだ。


「……あの、ところで、あなたは?」

「……あー、名乗るのを忘れてましたね。俺は真広桃李。話は聞いているのでは?」

「マヒロ、トウリさん? ……え……もしかして、陛下からお話があった、異世界人の方ですか?」

「まさしく、その通りですね」


 俺が名乗ると、何故かレレイナさんは固まってしまい、セバスさんとメイドも同様だった。


「……あの、何か?」

「「「…………し、しししし、失礼いたしましたああああぁぁっ!」」」


 ……俺の立場って、どうなってるの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る