第57話:本当によくある勇者召喚 52
翌日にはアリーシャから兵士たちに魔の森開拓についての説明が行われた。
当然ながら驚きの声が多かったのだが、ライアンさんとリコットさんを助けて魔の森から戻ってきた先生の存在が大きく反対意見はすぐに消えていった。
この話が冒険者ギルドのギルマスの耳にも伝わったのだろう、数日が経つと兵舎へ怒鳴り込んできたのだがそこはライアンさんが冷静に対応してくれた。
「おい、ライアン! 上級職の力を借りれたとしても魔の森の開拓ができるはずがないだろう! それはお前が一番よく分かっているはずだ!」
「落ち着け、ゴラッゾ。私たちにはハルカ様以外にも協力者がいるんだよ」
「何っ!? ……それは、あの小僧のことか?」
……あはは、ギルマス、そんな怖い顔で睨まないでいただきたい。
現在、俺は話し合いを行っていた部屋でライアンさんと先生と三人で魔の森開拓について進捗状況を確認しており、そこにギルマスが怒鳴り込んできたという状況だ。
「……おい、小僧!」
「は、はい!」
「お前、何者だ? 確か少し前に冒険者が魔の森方面から誰かがやって来たと噂していたが、それがお前なのか?」
「……あー、どうですかねぇ」
「どうなんだあ?」
「そうです! その噂の人物は俺です!」
だ、だから睨まないでくださいってば!
「落ち着くんだ、ゴラッゾ! ……はぁ。トウリ様、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」
「……は、はい」
嘆息しながらライアンさんが声を掛けてくれたので、俺は逃げるようにしてそちらへと向かう。
渋い表情のライアンさんから口にされた内容は、アリーシャから冒険者ギルドの話を聞いていた俺としては意外なものだった。
「ゴラッゾは信用できる人物です。彼にトウリ様の職業について説明をして、冒険者ギルドの協力を約束させてはどうでしょうか」
「あの、俺はアリーシャとグウェインからしか冒険者ギルドの話を聞いたことがありません。領主側と冒険者ギルド側で仲が悪いと聞いているんですが、そこはどうなんですか?」
前領主とは良好な関係を築いていたようだが、アリーシャが領主になってからは協力関係を築けていないと聞いている。
もしこの話が本当ならば、冒険者ギルドの協力は確かに魅力的ではあるもののアリーシャを裏切る行為になるならすべきではない。
「それは勘違いでございます、トウリ様」
「ですが、当の本人がそのように言っているんですよ?」
「それは確かに領主殿の勘違いだな」
「どわあっ!?」
いやいや、離れて話しているのにそっちから近づいて来ないでくださいよ、ギルマス!
「か、勘違いというのはどういうことですか?」
「領主殿が冒険者ギルドに対してやるべきことをやっていない、だから俺たちも手段を選べないってことで対立しちまっているんだ」
「だったら、そのやるべきことってのは何なんですか?」
「そりゃお前、そんなもんは家令にでも聞けば分かる話じゃねえか」
「その家令すら今はいない状況で知りようがないじゃないですか」
「……はあ?」
……いや、そんなあり得ないみたいな顔をされてもなぁ。実際にアリーシャの屋敷にはグウェインと二人以外に誰もいないんだよ。
「前領主が亡くなってアリーシャが継いだ時に見限られて全員が去ったみたいですよ」
「……あ、あいつらああああっ! 次の家令に引き継いだって言ってやがったのにいいいいっ!」
ギルマスが拳を握りながらわなわなと震えている。
うーん、これはあれだな。アリーシャもギルマスもすれ違いで仲が悪かったにすぎないようだ。
「一応アリーシャにも確認をしてみたいんですが……」
「お、お待たせしました! ……って、どうしたんですか、皆さん?」
……うん、ナイスタイミングです、アリーシャ!
ここで俺はアリーシャとギルマスのすれ違いについて説明し、そしてギルマスはアリーシャがやるべきことを伝えていく。
そのやるべきことというのは、兵士と冒険者ギルドの力関係の調整と魔獣の間引きに対する取り決めを行うことだった。
「……も、申し訳ございませんでした、ゴラッゾ様!」
「いや、俺も出て行った奴らの話を鵜呑みにして領主殿に話を持っていかなかったからな。こちらこそすまなかった」
お互いに頭を下げてくれたことで、領主と冒険者ギルドで協力できる関係を築くことができる。
そして、ライアンさんが信用できると言い切ったギルマスにならば俺のことを教えておいても問題ないだろう。
というか、俺も冒険者になる予定なんだからいつかはバレるだろうし。
「それじゃあ、俺の職業についてなんですが――」
そこで俺が特級職の可能性が極めて高いこと、その能力と魔の森の開拓に不可欠な存在であることを説明する。
加えて俺と先生が異世界人であり、今後も異世界人が転移で飛ばされてくる可能性があることから彼らを助けるために開拓を急ぎ進めたいことを伝えた。
「はぁー、まさか小僧が特級職だとはな!」
「たぶんですけどね」
「それだけ異常な能力なら特級職で間違いないだろうな! どれ、俺のことも鑑定できるのか?」
「そ、それじゃあ、失礼して……」
俺はギルマスを鑑定しながら内容を口にしていく。
「名前はゴラッゾ・ストーンズ。レベルは33、職業が……
「おぉ、本当に見えてるんだな。そうよ、俺は上級職の狂戦士って職業で成り上がった冒険者ギルドのギルドマスターだ、よろしくな!」
「は、はあ」
こうして俺たちは冒険者ギルドとも和解し、一気に魔の森開拓を進めて行くのだった。
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