第56話:本当によくある勇者召喚 51

 何故ここまで歯切れが悪いのかというと、案内にはグランザウォールの場所と魔の森の全体像の地図が表示されており、どの辺りまでなら開拓可能といった感じで色分けがされている。

 そして、開拓率という新しい数字も表示されており、これが1%と表示されているのだ。


「おそらく、魔の森の1%までなら開拓可能。それ以上は不可能だってことだと思う」

「その解釈で間違いはないと思うわ。でも、その1%の中に転移先が含まれているのは朗報よ、真広君」

「そうですね。まあ、先生やライアンさんたちに頼りっきりになると思いますが……って、どうしたんですか、皆さん?」


 また俺と先生で話をしているとアリーシャたちが口を開けたまま固まっていることに気がついた。


「……その、あそこまで行くのでも何十年とできなかった偉業なんですよ?」

「……これが異世界人なのか」

「……凄いよ、二人とも」

「……いや、違うだろうな」


 最後のライアンさんだけが違う意見だった。


「凄いのは、トウリ様とハルカ様なのでしょう」

「俺たちが凄いですか?」

「特級職でもないのですから凄くはないかと」

「いや、ハルカ様の凄さはまた別のところにあります。そして、これは推測ですがトウリ様の鑑定士(神眼)というのは特級職なのではないですか?」


 おぉぅ、ライアンさん、鋭いな。

 まあ、魔の森に足を踏み入れて生還することがどれほど凄いことなのかはこの世界の人たちの方が理解しているはずだ。

 俺はそれを成し遂げてしまったのだから、鑑定士(神眼)が特級職だと疑われるのも仕方がないか。


「あくまでもおそらく、です。鑑定士(神眼)が本当に特級職なのかどうかは定かじゃないんですよ」

「でしょうな。私も聞いたことがありませんし、シュリーデン国すら知らないことでしょうから」


 とはいえ、今は俺の職業よりも重要なことがある。


「一番大事なのは1%の中に転移先が含まれているということです」

「そうですな。では、魔の森で活動できそうな兵士を選抜いたしましょう……ですが、私とヴィルくらいでしょうが」


 そこでライアンさんは顎に手を当てて考え込んでしまった。

 ライアンさんとリコットさんを助けに行った時も立候補してくれたのはヴィルさんだけだった。

 今からレベルを上げるにしても時間が掛かるだろう。

 長い目で見ればその方が確実なのだが、次の転移がいつ行われるのかが分からない今、できるだけ急いだ方がいいに決まっている。


「わ、私も手伝います!」

「私もです!」


 残るアリーシャとリコットさんが手を上げてくれたのだが、ライアンさんは渋い顔を見せた。


「気持ちはありがたいが、アリーシャ様とリコットではレベルが足りないだろう」

「その通りです。前回は助けていただきましたが、本来ならば下級職が足を踏み入れることなどできないのですよ?」

「レベルのことならご安心を、ライアン兵士長」

「その通りです! 私、レベルが上がったんですから!」


 アリーシャが笑顔で、リコットさんが気合のこもった声ではっきりと口にする。

 レベルに関しては俺も確認している。だが、中級職のヴィルさんがレベル25でようやくといった感じの魔の森で、下級職のレベル23とレベル19ではまだまだ足りないだろう。


「兵士の中に中級職は他にいないんですか?」

「いるにはいるが、まだレベルが低すぎてな。魔の森に連れていけないのだ」

「ならば私たちを連れていくべきですね」

「いや、さすがにアリーシャ様を連れていくのは」

「だったら私は問題ないですよね! 魔の森は経験済みですし、兵士ですから!」

「リコット、お前なぁ」


 強気に協力を申し出るアリーシャとリコットさん。

 危険だと協力を断りたいライアンさんとヴィルさん。

 そんな四人の構図を他人事のように見ていた俺だったが、そこに立ち上がったのは先生だった。


「では、こういうのはどうでしょうか。アリーシャさんとリコットさんが魔の森に向かう時には必ず私が同行します。逆を言えば、私が同行できない時には絶対に向かわせません」

「ハルカさん、それはさすがにご迷惑になってしまいます」

「いいえ、アリーシャさん。あなたはグランザウォールの領主なのでしょう? であれば、自分の命を第一に考えて行動するべきです。都市を発展させることも大事ですが、それよりも大事なものがあることをお忘れなく」

「それは……はい、分かりました」


 うーん、先生の言葉は的確に相手の心を打ち抜くというか、納得の提案を口にしてくれる。

 今もそうだし、兵舎に向かっていた時もアリーシャに助言をしていた。

 この人、ただの数学の先生だった気がするんですけど。


「ライアン様とヴィル様もそれでよろしいでしょうか?」

「ハルカ様がついてくれるのであれば助かります。であれば、私たちからもどちらかを必ず同行させましょう。近接戦で戦える職業がリコットだけでは心もとないですからな」


 こうして俺たちは魔の森開拓という名目で、異世界人救出作戦を開始したのだった。

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