第41話:本当によくある勇者召喚 37

 改めて見ると、とても不気味で空気が重い森なのだと思えてしまう。

 二人もそう感じたのか、額には先ほどよりも多くの汗が浮かんでいる。

 多くの規格外な魔獣が跋扈する森なのだから仕方ないかと自分を納得させ、俺は案内に従って足を進めて行く。


「くそっ! どうしてさっきまでは入り口近くにいたのに、どんどんと奥に行っちゃうんだよ!」

「二人は奥に向かっているのですか?」

「はい。でも、おかしいんです。真っすぐ奥に進んでいるわけではなくて、蛇行して進んでいるんです」

「蛇行しながらですか?」


 そこまで話を聞いたヴィルさんは少しだけ思案顔を浮かべると、俺たちにとって最悪な推測を口にする。


「……もしかすると、兵士長たちは魔獣に追い掛けられているのかもしれませんね」

「先にあちらが見つかってしまったということですか?」

「はい。そして、逃げた先によっては他の魔獣にも見つかるかもしれません」


 魔獣が一匹なら俺の能力を晒してみんなで協力すれば対処できるかもしれないが、複数の魔獣に囲まれたら手も足も出ないだろう。


(一対一の戦いなんて以ての外だ。レベル差があり過ぎて攻略法を用いても絶対に勝てない!)


 どのような策を弄しても勝てないものは勝てない。魔の森に生息している魔獣とは圧倒的な実力を有した存在であり、先ほどのクイーンドラゴンがまさにそれなのだ。


「トウリさん、周囲の魔獣はどうなっていますか?」

「今のところは気づかれていないようです。あちらも魔獣を気にしながら逃げているのでしょうか」

「兵士長なら気配を探ることはできそうですが、どうでしょう」


 ヴィルさんの言い方だと、魔獣を気にしながら逃げているという可能性は低いと見える。

 ならばどうして他の魔獣に気づかれていないのか疑問が残るところだけど……まてよ、気づかれていないんじゃなくて――気づいているけど近寄れないってことか?


「か、鑑定、ライアンとリコットの近くにいる魔獣!」


 俺は一つの懸念に気づきすぐに鑑定を行う。

 ヴィルさんがすぐ隣にいるが関係ない、今は一刻を争うかもしれないのだ。


「どうしたんですか、トウリ様?」

「……やっぱり、そういうことか!」

「な、何か分かったのですか、トウリさん?」


 俺の懸念が的中してしまった。

 そうだよね、魔獣が跋扈している魔の森で人間が動き回って気づかれないはずがない。

 ならば何故一匹の魔獣を除いて他は近づかないのか。それは――その一匹の魔獣が異常に強い個体だからだ!


「二人を追い掛けている魔獣の名前はオークロード。レベルは――70です」

「な、70!?」

「それにオークロードということは、オークの上位種ではないですか!」


 二人の驚き方を見ると、やはり一筋縄ではいかない相手のようだ。

 しかし、どうしてオークロードはリコットさんたちをすぐに殺さないのだろうか。怪我をしているのであれば逃げる速度も遅いだろうし、足が遅い魔獣なのか?


「どちらにしても、急ぐ必要がありますね」

「……しかし、このままではアリーシャ様を危険な目に遭わせてしまいます。レベル70のオークロードともなれば、兵士長と私が全力で挑んでも勝てるとは思えません」

「でも、ここまで来て一人で帰れなんて言わないわよね?」


 ……本当に、この領主様はお転婆だな。


「ヴィルさん、向かいながら俺の能力についてお伝えします」

「いいのですか?」

「そうしないと、全員で生きてグランザウォールに戻るのは難しそうですから」


 俺はアリーシャにも無言で頷き、リコットさんたちのところへ向かいながら鑑定士(神眼)について知り得ている情報を全て打ち明けた。

 最初は驚きの連続だったが、徐々に慣れてきたのか最後の方になると質問すらしてくるようになっていた。

 だが、俺が気づかなかった懸念を知るきっかけにもなったのでありがたかったりもする。

 特に魔力消費が鑑定する対象によって変わるのか否か、という部分は全く気にしていなかった。

 大体五回ほど使うと魔力が1減るくらいにしか考えていなかったので、俺は急いでステータス画面を開いて魔力の数値を確認する。


「……あっ! いつの間にかに14まで減ってる!」

「鑑定する対象によって消費魔力が変わるかもしれませんね」

「あ、危なかった。魔力半減がなかったら無くなってたよ」


 そう考えるとゾッとする。魔の森の中で案内を見られなくなるということは、死に直結するからだ。


「魔力を回復させるポーションはありますか?」

「すみません、トウリさん。マジックポーションは数が少なくて、もう少し待っていただけますか?」

「そうなんですね。それじゃあ、魔力が5を切ったら伝えます」

「お願いします」


 俺の言葉にアリーシャも大きく頷いた。


「……トウリ様、この先に何者かが通った後がございます」


 ヴィルさんの言葉で現実に引き戻された俺は示された方向へ視線を向ける。

 そこには巨大な何かが通っただろう足跡が残されており、その先の木々はなぎ倒されていた。

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