第42話:本当によくある勇者召喚 38

 地面をよく観察すると、巨大な足跡とは別に人間のものと思われる足跡もある。

 足跡を辿ればリコットさんたちに追いつけるだろう。


「……こっちです」

「えっ! ちょっと、トウリさん!」

「真っすぐ行かないのですか!」


 しかし、俺の選択は脇に逸れるルートだった。

 確かに真っすぐ向かえば早く追いつけるだろう。だが、それではリコットさんたちよりも先にオークロードと遭遇してしまう。

 挟み撃ちにできると考えることもできるが、リコットさんたちの状態が分からない以上は先にそちらと合流したい。


「リコットさんたちの前に回り込みます。そして、先にポーションを与えてから一気に片を付けましょう」

「その方が成功率が高いのね?」

「はい」


 真っすぐ進めば成功率は5%に下がってしまう。回り込めば10%のままなので、そちらが最善策だろう。

 ただ、先ほどの文字化けからずっと気になっている部分があるんだが、これはいったい何なのだろうか。


「トウリ様、急ぎましょう!」

「あっ、すみません。そうですね、行きましょう!」


 分からないことを考えても仕方がない。

 俺はヴィルさんに進む先を指示しながら駆け出すと、しばらくして俺たち以外の声が聞こえてきた。


「――お前だけでも逃げろ!」

「――ダメです、兵士長!」

『――グルオオオオオオッ!』


 リコットさんたちの声が聞こえたものの、同時にオークロードの声が聞こえたのも確かである。

 俺たちは顔を見合わせると一気に速度を上げた。

 そして――俺たちはようやく合流することができた。


「リコットさん!」

「えっ! マ、マヒロ!?」

「ヴィルに……ア、アリーシャ様!?」


 俺たちの登場に二人はもの凄く驚いていた。


「とりあえずポーションを飲んでください!」

「その後にオークロードを倒します!」

「指示は俺が出しますから、その通りに動いてくださいね!」

「あの、なんでマヒロが?」

「それに、君の指示に従うというのは?」

「「「いいから飲んで!」」」

「「は、はい!」」


 有無を言わせない俺たちの迫力に負けた二人は、アリーシャが手渡したポーションを一気に飲み干した。

 どうやら怪我をしていたのはライアンさんだったのだが、ポーションを飲んだことで傷も癒えてホッと胸を撫で下ろしている。

 だが、まだ脅威が去ったわけではない。むしろあちらから近づいてきているのだ。


「俺の能力でオークロードを攻略します。信じられないかと思いますが、アリーシャとヴィルさんは俺のことを信じてくれてここまで辿り着くことができました。なので、リコットさんとライアンさんも――」

「私は信じるわよ!」


 疑問の一つでも出てくるかと思っていたのだが、リコットさんは俺が言い終わる前に信じると言ってくれた。

 そうなると、あとはライアンさんなのだが。


「……君たちがこの場にいることが能力の証明になるか。いいだろう、私も従おうじゃないか」

「……あ、ありがとうございます!」


 ライアンさんの決断に驚きつつも俺はすぐに行動へと移した。

 というのも、ついに俺たちに迫る脅威がその姿を見せたからだ。


『グルオオオオオオッ!』

「こ、これが、オークロード!」


 二足歩行の魔獣を見るのはこれが初めてなのだが、立ち上がった時の大きさはキングベアを超えて三メートル以上ある。

 だが、キングベアとは異なりオークロードの手には、人間が扱うには無理がある巨大な岩の斧が握られていた。


「魔獣が武器を使うんですか?」

「レベルの高い魔獣は他の魔獣よりも知能が高くなることがあります。特に魔の森を縄張りにしている魔獣はその様子が顕著に表れるんです」

「こいつは、先ほどまで私たちが逃げる姿を楽しそうに見ていたのだよ!」


 ライアンさんの握る直剣が怒りでカタカタと震えている。

 兵士として長年グランザウォールを守り、兵士長という地位にまで上り詰めたライアンさんとしては悔しさもひとしおだろう。

 だからこそ、俺はオークロードを倒すための手助けに全力を注ぐつもりだ。


『グルアア?』

「はは、数が増えて怖くなったか? なんだったら逃げてくれてもいいんだ――」

『グルオオオオオオオオオオッ!』


 あ、やっぱりそう都合よくはいかないよね。まあ、分かってたことだから別にいいんだけどさ。


「よし、それじゃあまずは――リコットさん、ヴィルさん、ライアンさん! 死なないようにオークロードを足止めしてください!」

「「「……はい?」」」

「アリーシャは俺と一緒に来てください! いいですか、俺が戻ってくるまで絶対に耐えてくださいね!」

「ちょっと、トウリさん!」

「俺とアリーシャ、グウェインしか知らないあるものを取りに行きます! それがあれば絶対に勝てますから!」


 俺の言い回しに察しがついたのか、アリーシャも三人へ振り返り大声をあげた。


「皆さん、私たちを信じてください!」

「「「分かりました!」」」


 俺が言うよりも領主であるアリーシャが言った方が納得できるよな。でも……なんか悔しいぞ!


「くっ! い、行きましょう、アリーシャ!」

「はい! ……あの、何か怒っていますか?」

「怒ってませんから! 急ぎましょう!」


 怒ってない……そう、俺は怒ってなんていないんだからな!

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