第37話:本当によくある勇者召喚 33
「いや、アリーシャ様! それはさすがに無茶が過ぎるのではないですか!?」
「もう決めたことですから。それに、グウェインもトウリさんも納得してくれています」
「ト、トウリ様!?」
「納得ではなく、諦めました」
俺がニコリと笑ってそう言うと、何故かアリーシャもニコリと笑っている。
その様子を見たヴィルさんは顔を手で覆い隠して嘆息していた。
「はああぁぁぁぁ。……分かりました、アリーシャ様は決めたことを覆すことはしませんからね」
「ありがとうございます」
「褒めてませんからね! ……それで、出発はやはり明日の朝なのですか?」
切り替えの早さはさすが兵士というべきか。もしくはヴィルさんが優秀な人なのかもしれない。
「二次被害は避けるべきですからそうなるかと」
「そうですか……今日の夕方までに戻ってこなかったことを考えると、心配は尽きませんが仕方ありませんか」
「……すみません、ちょっとした提案があるんですがいいですか?」
俺が朝からずっと出しているリコットさんたちのステータスを見つめながら口を開くと、二人が顔を上げてこちらを向いた。
「救出だけなら、すぐに出発してもいいかもしれませんよ」
「……そ、それは本当ですか、トウリさん!」
「はい。二人は魔の森の入り口付近から動こうとしていないんです。おそらく、入り口の前を縄張りにしているドラゴンのせいで、身動きが取れないんだと思います」
「それでは、私たちが向かっても助けられないのではないですか?」
ドラゴンのステータスは見ていないが、ブレスがあるのだから当たれば一瞬にして灰になるだろうし関係ない。
問題はどうやって救出するかなんだけど、これも攻略法の中から一つ気になる方法を見つけている。
「ドラゴンは定期的に移動しています。ただし、移動の間隔が短いので二人は移動できないでいるんだと思うんです」
「怪我のせいで、ということですね」
「はい。最初は入れたところを見ると、そうでしょうね。だから、俺たちが中に入って、そこで治療を行ってから魔の森を脱出するんです」
「ちょっと待ってください!」
俺とアリーシャの話し合いを黙って聞いていたヴィルさんだったが、勝手に話が進んでいく現状に慌てて口を開いた。
「ト、トウリ様はどうして兵士長たちの動向が分かるんですか?」
「えっと、俺の職業のおかげとしか言えないんですけど」
「……それをアリーシャ様は信じているということですか?」
「えぇ。実際にこの目で確かめましたからね……グ、グウェインめ!」
何故か突然起こり出したアリーシャにビクッと体を震わせているヴィルさん。……まあ、勝負下着を見つけられたらそりゃ信じるしかないわな、うん。
「……詮索はしないでおきますが、本当に信じていいのですね?」
「信じてください」
俺はヴィルさんの目を真っすぐに見つめ返しながらはっきりと答えた。
しばらくは睨み合いのような感じになってしまったが、ヴィルさんは突然笑みを浮かべると、俺に対しても左胸を二回叩く敬礼を見せてくれた。
「騎士の心に誓って、私もトウリ様を信じましょう!」
「……ありがとうございます、ヴィルさん」
二人が納得してくれたところで、俺は攻略法について説明する。
全員が無事に生き残る攻略法の中では一番成功率が高いのだが、それでも10%とブルファングの時よりも低いのは懸念事項ではある。
「……ほ、本当にこの方法で助かるのか?」
「成功率は低いですけど、これが最善だと思います」
「トウリさんが言うならそうなのでしょうね」
必要なものは怪我を治療するための道具なのだが、表示されている名前を見ると少しだけワクワクしてしまう物がある。
「怪我をしている可能性が高いのですが、ポーションは常備されていますか?」
そう、ポーションだ! これ絶対に怪我が治りますよ的な、あのポーションだよね!
「はい。ですが、持ち運びの際に割れてしまわないよう注意が必要です。そういえば、アリーシャ様は魔法鞄をお持ちではなかったですか?」
そう! そしてこれも異世界でおなじみの道具、魔法鞄! きっと見た目以上の容量が入る、ザ・異世界的な魔法の鞄ではないだろうか!
「持ってきていますよ。これに必要な道具を全て入れて向かいましょう。ポーションは予備も持っていきたいのですが構いませんか?」
「もちろんです、すぐに準備いたします!」
ヴィルさんはアリーシャに断りを入れると一度部屋を後にした。
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