第36話:本当によくある勇者召喚 32

 兵舎に到着すると、そこではヴィルさんを含めた上の位の者と思われる人たちが集まり会議を行っていた。

 アリーシャはともかく、俺は完全なる部外者なのでヴィルさん以外の面々は驚きを隠せない様子だ。


「彼は私の協力者です。今回の魔獣襲来、およびライアン兵士長とリコット救出の手助けをしてくれます」


 そして、アリーシャの説明を聞くとさらなる困惑が広がっていった。


(こんな子供が協力者だと言われても、納得できないよな)


 パッと見ではあるが比較的年齢層は高い気がする。おそらく兵士長と同じ立場かその次くらいの立場の人が集まっているのだろう。

 そうなると、突然現れたどこの馬の骨とも知れない人物を頼るというのは納得できないのかもしれない。


「領主様、お言葉ですがその者はどこの誰なのですか?」


 早速口を挟んできたのは、髭面強面の兵士である。


「私の古い友人の子供です。今回、二人の救出には彼の力が必須となりますので協力をお願いしました」

「我々を信用していただけない、ということですか?」


 おぉぅ、いきなりバチバチし始めたんだが、兵士たちはアリーシャの味方じゃなかったのか?


「信用はしています。ですが、魔の森という場所へ向かうのですから、準備は最善を尽くすべき、そうでしょう?」

「それはそうですが」

「それに、今回は討伐ではなく救出です。迅速な行動が必要となりますので、彼を詮索する様な議論は無駄な時間でしかありません」

「ぐぬっ……」


 アリーシャ、格好いいなあ! 髭面強面が何も言えずに口をへの字にしているよ。


「それに、今回の救出作戦に手を上げてくれたのはヴィルだけだと聞いていますが、間違いありませんか?」

「はい。私だけでございます、アリーシャ様」


 ヴィルさんはこの中では一番若く見える。

 この中で堂々としていられるのは、実力も備わっているからなのだろう。

 こっそりと鑑定してみるとヴィルさんのレベルは25あり、職業はライアンさんと同じ銀級騎士となっている。

 他の兵士たちはレベルが20に達していないところを見ると、魔の森へ向かう最低限のレベルは20ということだろうか。

 ……そう考えると、俺のレベルが如何に足りていないかは一目瞭然であると共に、アリーシャが何故レベル20もあるのかが不思議でならない。

 ベテラン兵士より高いって、マジでどうなのよ。


「そう……分かったわ。では、ヴィル以外の皆さんは魔獣襲来に備えて準備を進めておいてください。ヴィルは私とそのまま話し合いを行いましょう」

「かしこまりました」


 ヴィルさんだけがその場で左胸を叩くと、他の兵士たちは軽く頭を下げて部屋を出ていく。

 ……おいおい、まさか兵士も分裂しているとか言わないよな、マジで!


「……お見苦しいところを見せてしまいましたね」

「いや、それはいいんだけど……大丈夫なんですか?」

「大丈夫と大手を振って言えたらいいんですが……」


 どうやら大丈夫ではないみたいです。


「ですが、今はこちらの事情について話し合っている余裕はありません」

「そうですね。ヴィルさん、よろしくお願いします。俺は真広桃李と言います」

「ヴィル・トーマスと申します。……あの、ところでトウリ様は冒険者なのですか?」


 屋敷で顔を合わせたとはいえ、俺のことは全く説明されていないのだから気になるのも仕方ないだろう。


「いえ、俺は冒険者ではありません。ただの助っ人です」

「……はあ」

「トウリさんの職業は訳あって言えませんが、兵士長とリコットちゃんを見つけるのに役立ちますから同行をお願いしました」


 アリーシャは変な疑いを持たれないように簡潔に説明すると、今は急ぎの状況だということを改めて理解したヴィルさんも追及はせず、ただ俺に握手を求めてきた。


「兵士長は私の恩人なのです、よろしくお願いいたします」

「全力で協力させていただきます」


 ヴィルさんと固く握手を交わした姿を見て、アリーシャは手を叩くと笑顔を浮かべて口を開く。


「よし! それじゃあ話し合いを始めましょう! 救出作戦なんだから人数は少ない方がきっといいわね!」

「そうですね。私とトウリ様で絶対に兵士長とリコットを――」

「私も行くわよ」

「……は? ア、アリーシャ様、今、何と言いましたか?」

「私も行くと言ったのよ」

「……はああああぁぁぁぁぁぁ!?」


 うんうん、そうなるよね、分かる分かる。

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