第35話:本当によくある勇者召喚 31
俺が驚くのは当然として、グウェインまで慌てた様子を見せてアリーシャを説得している。
「ダ、ダメだよ、姉さん! 姉さんに何かあったら、グランザウォールの領主としての仕事はどうするんだよ!」
「そこはグウェインに任せるわ。私よりも上手くやってくれそうだもの」
「僕にできるわけないだろう!」
アリーシャとグウェインで言い合っているのだが、そもそもの問題があるのではないだろうか。
「あの、アリーシャは戦えるんですか? 職業は魔導師と聞いていましたけど、下級職なんですよね?」
「そうだよ! 下級職なんだから魔の森で役に立てるわけないじゃないか!」
「そうですけど、レベルは20とリコットちゃんよりも高いんですよ?」
「レ、レベル20!?」
予想以上に高かったことに俺は驚いてしまった。
だって、兵士として働いているリコットさんの方が魔獣と対峙する機会は多いだろうし、その分レベルも上がりやすいと思っていたのだが、それよりも高いだなんて。
「……アリーシャって、実やお転婆娘だったんですか?」
「どうかしら。でも、レベル20なら自衛に徹すれば何とかなるわ」
「何とかって、それでも危険であることに変わりはないよ……」
グウェインはそう口にしているが、声のトーンは徐々に小さくなっている。
もしかして、アリーシャは一度口にしたことを曲げることのない頑固な性格なのかもしれない。
そうなると、俺が何を言っても絶対に同行するんだろうなぁ。
「アリーシャ、本当に同行するんですか?」
「もちろんです。グランザウォールで暮らす領民の危機なのですから、私が立ち上がらないといけないんですよ」
「魔の森は入り口でもレベル50や60の魔獣がうようよしています。レベル2の俺が言うのも変ですが、下級職のレベル20では一撃で死んでしまうかもしれません」
「死ぬつもりで行くわけではありません。領民を助けて、生きて帰るつもりですからご安心を」
「いやいや、ご安心をと言われても」
「ご安心を!」
……うん、頑固者確定です。
俺は嘆息しながらグウェインに視線を向けたのだが、どうやらグウェインはアリーシャの説得を諦めたみたい。
ならば俺はアリーシャとヴィルさんが死なないよう、リコットさんとライアンさんのところへ安全に案内する必要が出てきたようだ。
「分かりました。でも、俺の指示には絶対に従ってくださいね。鑑定士(神眼)の能力で攻略法の成功率も出てくるみたいですから」
「……成功率ですか?」
「はい。そのおかげで俺はブルファングを攻略できたんですよ」
そこで俺はブルファングを倒した時のことを詳しく説明した。
最初は成功率の高い内容でリコットさんを生贄にするとか出てきたことも伝えたのだが、その時には二人とも呆れた表情を浮かべていた。
だが、成功率が低くなるにしても二人とも助かる方法まで提示してくれたことには、驚きと称賛の声が上がった。
「ということは、兵士長とリコットちゃんを助けつつ、私たちが生き残る方法を鑑定してもらえばいいということですね」
「はい。ですが、あくまでも俺の言う通りに行動してくれればの話です。もし違う行動をしてしまえば成功率は変わるでしょうし、他に不安がないわけではありません」
「というと?」
「俺がこの方法を見つけたのは先ほど話したブルファングを倒した時なので、検証とかが全くできていません。なので、何かしらイレギュラーが起きた時に対応ができるのか、それが分からないんです」
鑑定で指示してくる内容を行ったとしても絶対に助かるわけではない。その為に成功率が表示されているわけだし、失敗も十分あり得るということ。
しかし、それ以外に鑑定でも予想できなかった事態が起きた時、指示がどうなるのかなど分からないことも多いのだ。
「だから、アリーシャにはグランザウォールに残っていて欲しい――」
「絶対に行きますからね! 誰が何と言おうと、私もついていきます!」
「……こりゃダメだな」
頭を掻きながら俺もアリーシャの説得を諦めた。
グウェインも覚悟を決めたのか、自分にできることをしようとアリーシャに領主代理としての行動について確認を始めている。
(リコットさんたちは……やっぱり動きが少ないな。どちらかが怪我をしているとなれば急いだ方がいい。匂いに敏感な魔獣とかがいたら隠れていても見つかるかもしれないし、治療が手遅れになることも考えられる)
二人の引継ぎが終われば、すぐにでもヴィルさんと合流して明日の行動を相談しなければならないだろう。
おそらく、俺の職業についても説明することになるだろうけど、やっぱり命には代えられない。
「お待たせしました、トウリさん」
アリーシャから声が掛けられたので、俺はグウェインへと振り返る。
「全員無事に帰ってくるから、安心して待っててくれ」
「ありがとう、トウリ。みんなを頼む!」
「任されたよ! アリーシャ、行きましょう!」
「はい!」
俺とアリーシャは急いで兵舎へと向かったのだった。
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