第23話:本当によくある勇者召喚 20
この日の晩は、料理が人一倍美味しく感じられた気がする。
「……あの、トウリさん?」
「美味い! 美味いなあ!」
「……えっと、トウリ?」
「美味い――ふんぐっ!」
「うわあっ! 水、水!」
……んぐっ……んぐっ……ぷはあっ!
「……ありがとう、グウェイン」
「いや、いいんだけどさ……その、何かあったのかい?」
「リコットちゃんと仲良くできませんでしたか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
そう、リコットさんとはむしろ上手くやれている気がする。
あの王様の性格を少しでも見てしまったからか、裏表のないリコットさんにはとても好感が持てるんだ。
だけど、問題なのは俺の方であって、どうしたものかと考えてしまう。
「……ブルファングの皮膚を、切れなかった」
「ブルファングの皮膚は硬くて弾力があるからね、仕方ないと思うよ」
「でしたらミニファングは――」
「可愛すぎるんですよー!」
「「……はい?」」
俺はここでミニファングの可愛さをこれでもかと語っていった。
うり坊、俺は都会っ子だったから生でうり坊を見たことはなかったけど、テレビに映るあの愛くるしさに目を奪われたものだ。
まあ、基本的に可愛いものが好きだっていうだけなんだけど、そのせいでこの世界のミニファングを殺せなくなるとは思ってもいなかった。
そして、俺が語り終えたのと同時に二人から飛び出した答えは――
「「でも、魔獣ですよ?」」
「そうなんだよねー! 結局は魔獣なんだよねー!」
うん、魔獣だから倒さないといけないのも分かるんだよ。最終的にはブルファングになって、今の俺では手も足も出なくなるんだからね。
「それでも、可愛いのは尊いのよー」
俺がグスグスしていると、ポンと手を叩いたアリーシャが一つの提案を口にしてくれた。
「でしたら、ヌメルインセクトを倒せばいいのでは?」
「……ヌメルインセクトってなんですか?」
「魔獣の中でも見た目がグロテスクなせいで、好んで討伐をする人がいないくらいなんです。動きも遅いしブルファングよりも弱いから、トウリさんにはピッタリかもしれませんよ」
「なるほど……可愛くないならいけるかも」
見た目がグロテスクってのが気になるけど、それならむしろ討伐した方が良さげな魔獣ではないか。
でも、そんな魔獣のところにリコットさんを連れて行っていいのだろうか。
俺がその点を確認すると、グウェインは笑いながら問題ないと言ってくれた。
「リコットは正義感が強いから、全然問題ないよ」
「でも、グロテスクなんですよね?」
「苦手とも言っていませんでしたし、大丈夫なのでは?」
「それ、確証がないですけど?」
「まあ、明日聞いてみたらいいんじゃないかな。それとも、ミニファングを殺すかい?」
「それは無理です!」
「でしたら、明日はリコットちゃんに確認をして、問題が無ければヌメルインセクトを討伐してみましょう」
なんだか不安ではあるものの、ミニファングを殺すことは俺の心情的に難しいので致し方ない。
これでリコットさんがダメだと言うなら別の方法を考えようかな。
「それじゃあ、俺は明日に備えて早めに休みますね」
俺は二人に断りを入れてリビングから部屋に戻ると、ベッドへ横になりながら幼馴染のことを考えていた。
あいつも、正義感はあったからなぁ。
「……円、大丈夫かな」
正義感はあるが決断力に欠けることがあった円は、迷った時にはよく俺に相談してくれたっけ。
かという俺も、円にはよく相談をしていたけどさ。
「まあ、ユリアもいるし、あいつもいるから問題はないだろう。……生徒会長が自分に酔いしれて変なことをしなければだけど」
ユリアとあいつの性格もある程度は把握しているけど、生徒会長の性格だけは絡んだこともないし全く分からない。
勇者という、おそらく最高の職業を得たことで暴走しなければいいんだけど……まあ、その点は秋ヶ瀬先生がどうにかしてくれるだろう。
巻き込まれたわけだが、唯一の大人なわけだしね。
「……もう寝るか」
明日はヌメルインセクトを討伐して、初めてのレベルアップを経験するのだ。
どれだけ能力値が上がるのかも楽しみだし、俺自身で魔獣を討伐できるようになる日もきっと近いだろう。
「ふわああああぁぁ……ぐぅ……」
そして、この世界に来てからは寝つきも良くなったようで、今日もあっさりと眠りに落ちてしまった。
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