第24話:本当によくある勇者召喚 21
本日は二度目のレベル上げなのだが、何故かリコットさんとは別の同行者がいらっしゃいます。
「なんでグウェインがいるの?」
「今日は非番だからね、せっかくだからトウリに付き合おうと思ったんだ」
「でも、危険じゃないのか? グウェインは領主の弟だし、もっと護衛を増やした方がいいんじゃないの?」
「あはは、大丈夫だよ。僕も自衛くらいならできるからさ」
俺の心配をグウェインは軽く笑い飛ばしてしまった。
だが、リコットさんはそれを許そうとはしない。……うん、さすがはグランザウォールの兵士だね!
「自衛するだけなら残りなさい! ついてくるならちゃんと戦うのよ!」
「そこかよ!」
「リコットが言うなら仕方ない、僕もトウリのレベル上げに協力するよ」
「いや、協力してくれるのは嬉しいんだけど自分の無事を一番に心配して――」
「それじゃあ行きましょう!」
「頑張ろうね、トウリ!」
「……もういいよ、頑張ろうね」
……これ、鑑定をたくさん使って魔獣に警戒しないといけないパターン?
※※※※
さて、グランザウォールの外に出たものの魔獣の気配は一切ない。
そこで役立つのが俺の鑑定スキルなのだが、すぐに使ってヌメルインセクトを見つけるのは、特別なスキルがあるのではないかと疑われるかもしれない。
……そういえば、ヌメルインセクトを討伐することをリコットさんにも伝えておかないとな。
「リコットさん、今日はミニファングではなくてヌメルインセクトを――」
「リコット、あっちに行ってみよう!」
「もう、勝手に行かないでよ、グウェインは!」
……あ、あれ? 昨日の話はグウェインも聞いていたはずなんだけどな。
俺が疑問に思っているとグウェインだけがこちらを振り返り人差し指を口に当てている。
(……黙っていろってことか? でも、それだとリコットさんはヌメルインセクトが苦手ってことになるんじゃないのか?)
内緒で行くってことは、伝えると断られるからってことではないかと俺は考えた。
しかし、リコットさんのことはグウェインの方が知っているだろうし、魔獣を相手に変ないたずらなんてするはずもない。
……ここは、グウェインに従っておいた方がいいかな。
ついでではないが、俺は二人が前を歩いている間に鑑定スキルでヌメルインセクトの場所を確認しておく。
(……へぇ、グウェインが行こうとしている先にいるんだ。生息地が決まっている魔獣なのかもしれないな)
複数いたら困ると思っていたのだが、鑑定結果では一匹しかいないみたい。ブルファングよりも弱いらしいし、これなら俺のレベル上げの生贄になってくれるはずだ。
……しかし、見た目がグロテスクとはどんな魔獣なんだろう。見た目について詳しく聞いておけばよかった。
「……待って!」
そんなことを考えていると、リコットさんが大きな声をあげて立ち止まっており、その前ではグウェインが普段と変わらない笑みを浮かべて振り返る。
いったい何事だろうと俺が駆け寄ると、リコットさんの顔が引きつっており、体も若干震えていた。
「こ、ここから先には、行かない方がいいわね!」
「どうして? 平原には魔獣の姿はないし、林の中に行くしかないんじゃないの?」
「そうだけど……ここから先は……」
「あの、リコットさんが嫌なら俺は別に――」
「い、嫌じゃないわ! ただ、ちょっと気持ちの準備が必要なだけ!」
お、おぉぅ、さすが兵士と言うべきか、負けず嫌いな性格のようで。
でも、この反応を見る限り絶対に苦手だよね、ヌメルインセクト。
俺は横目でグウェインを見ると、彼はいたずらっ子が見せるような笑みを浮かべてこちらを見ている。……悪い奴だな、お前。
「すぅー、はぁー……すぅー、はぁー……よし、いいわよ!」
「あの、本当に嫌だったら構わな――」
「よーし、行くぞー!」
「ちょっと、グウェイン!?」
結局、グウェインの合図をきっかけにリコットさんは大股でズンズンと前に進んで行ってしまう。
その姿を楽しそうに眺めていたグウェインとは異なり、俺はあまりに心配だったので早足で近づくと声を掛けた。
「なあ、グウェイン。本当に大丈夫なのか? 魔獣相手にいたずらとか、質が悪いぞ?」
「いたずらなんかじゃないよ」
「それじゃあどうして何も言わないんだ? あの様子だと、絶対に苦手だと思うんだけど」
「……分かってるよ。でも、兵士として苦手な魔獣がいるなんて知られたら、大問題になってしまうんだ」
そう口にするグウェインの表情は真剣そのものであり、いたずらを考えているようには見えない。どうやら俺の知らない事情がリコットさんにはあるみたいだな。
「……分かった、俺からは何も言わないよ」
「……助かる」
そう言ってリコットさんの隣に並んだグウェインを見て……なんだか不敵に笑っているように見えるのはきっと気のせいなんだろうな、うん。
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