第22話:本当によくある勇者召喚 19
……さて、リコットさんがひとしきり笑ったこともあり、気を取り直してレベル上げに勤しむことにした。
先ほどのブルファングだが、リコットさんが止めを刺したので当然ながら俺に経験値は入っていない。
そして、今の俺ではブルファングの皮膚を切り裂くことができないと判明したので、より弱い魔獣を探すことになった。
「それにしても、マヒロって不思議な人よね」
「……初対面の人にそれは失礼じゃないですか?」
「だって、本当のことなんだもの」
「……まあ、間違ってはいないですけど」
「だよねー!」
リコットさんはとても社交的で、ズバズバと物を言う性格のようだ。
そのせいもあってよく思わない人も多いらしいのだが、仲良くなった人からの信頼はとても厚いのだとグウェインが言っていた。
「でもねー、グランザウォール周辺でブルファングよりも弱い魔獣ってなると……あまり見ないけどミニファングくらいかなぁ」
「それって、ブルファングの子供ですか?」
「そうそう。まだ皮膚も出来上がってないから柔らかいし、大人のブルファングよりも弱いからマヒロでも倒せるはずだよ」
「ふーん、ミニファングねぇ……」
グウェインは俺のことを鑑定士仲間だと紹介している。
何処から来たのか、どうやって知り合ったのか、その辺りを気にする様な性格ではないようで、リコットさんはグウェインの頼みならとお願いを聞いてくれている。
ただし、(神眼)については当然ながら伝えていないので、目の前で場所を示すことができる鑑定を行うことはできない。
「……鑑定……ミニファング」
なので、小さな声で鑑定を行いその方向へ俺が誘導しなければならない。
「……リコットさん、今度はあっちの方へ行ってみませんか?」
「あっち? ……いいけど、どうして?」
「どうしてって……勘、ですかね?」
あっちにいるんです、とは言えずにその場しのぎで勘としか言えなかった俺は、ドキドキしながらリコットさんの反応を見る。
「……あの、別に行かなくても」
「いいわよ、行きましょうか!」
「い、いいんですか?」
「まあ、どこを探すのも変わらないからね!」
……だったら最初からどうして、って聞かないでくださいよね! めっちゃ緊張したじゃないですか!
そんなことも言えないので俺は内心で大きくため息をつきながら、鑑定の案内に従って進んでいく。
しばらくするとリコットさんが立ち止まり、左腕を上げて俺に止まるよう指示を出した。
「……マヒロ、凄いわね」
「どうしたんですか?」
「ビンゴよ!」
リコットさんが指差した先に視線を向けると、そこにはブルファングよりも明らかに小さく、うり坊に似た魔獣のミニファングが地面に生えている草を食べていた。
「……か、可愛いですねぇ」
「何を言ってるのよ、あれを殺すのよ!」
「そ、そんな! あんなに可愛らしいうり坊を殺すんですか!」
「いやいや、あれはミニファングだからね? 大きくなったらブルファングになるのよ!」
「ブル……ファング……」
……そうだ、あのうり坊はミニファングで、魔獣なんだ! どれだけ可愛い見た目をしていたとしても殺さなければならない……可愛らしくても……くうっ!
「可愛いなあ!」
「こらっ! 大声を出すな!」
『プヒッ!?』
あっ……俺の声を聞いたうり坊が林の中に逃げてしまった。
「……ま、まあ、うり坊を殺すなんてかわいそう過ぎてできな――」
「逃げるわよ、マヒロ!」
「えっ、なんでですか? うり坊ならもういませんよ?」
「違うわよ! 来るのよ――親が!」
「……親?」
――ズドドドドドドドドッ!
リコットさんがそう口にしたのとほぼ同じタイミングで、林の方からもの凄い足音が聞こえてきた。
俺は慌てて足音の主を鑑定すると、案内にはブルファングの文字が二つも現れた。
「……ま、待ってくださいよ、リコットさーん!」
「もう! マヒロのせいだからねー!」
「ご、ごめんなさーい!」
結局、今日は魔獣を一匹も狩ることができずにレベルは1のまま。
初めてのレベル上げは、ほろ苦い経験になってしまった。
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