第20話:王城 2

 ――春香がいなくなってから三日が経とうとしていた。

 当然の如く生徒たちは荒れたのだが、そこをまとめたのは勇者である光也だった。

 シュリーデン国側の意見をそのまま信じた光也は、ひとり一人に声を掛けて直接説得を試みていき、声を掛けられた側も光也が言うならと落ち着きを取り戻していく。

 何故光也なら、という反応になったのかには一つの理由があった。


「俺にもお前にもあるが、スキルレベルは俺の方が高いみたいだな」

「カリスマスキルか……便利なスキルがあったものだな」


 王や領主など、土地を治めるものに発現するスキルがカリスマスキルなのだが、それを勇者と剣聖である光也と新も持っていた。

 これは特級職だからであり、賢者と拳王である円とユリアも持っている。

 しかし、円は桃李だけではなく春香も消えてしまったことで取り乱しており、そんな円を支えるためにユリアが付きっ切りになっているので、カリスマスキルの効果に気づいているのは光也と新の二人だけだった。


「勇者の俺がスキルレベル5、剣聖の新がレベル3」

「そうなると、八千代と近藤のスキルレベルが気になるところだな」


 賢者と拳王にカリスマスキルがあるかどうかは分からないのだが、二人の考えは持っているだろうということで一致していた。


「だが、勇者というのはどういう物語でも唯一無二で頂点になる存在だ。俺よりも上の存在がいるはずがないよ」

「……だといいんだがな」


 二人は現在、光也の部屋にいる。

 今後のことについて話し合うためだったのだが、二人ともシュリーデン国側の思惑に沿って動くつもりは毛頭なかった。


「今は従うしかない。レベルを上げないといくら特級職とはいえ殺されてしまうだろうからな」

「それは真広みたいに、ということか?」


 新が桃李の名前を出した途端、光也の表情は険しいものに変わった。


「……あいつがいなければ、八千代さんが迷うこともなかったんだ。そもそもあいつは初級職だから処分されたんだろう」

「真広がいなくなったから迷っているんじゃないのか?」

「違う! 真広という存在自体が邪魔だったんだ。……正直、俺は感謝しているんだよ。真広を消してくれたシュリーデン王にな」


 光也は円に恋心を抱いていた。

 それは生徒会長と副会長という関係性ができる前からであり、光也の片思いは高校一年生の頃から続いていた。

 容姿端麗、頭脳明晰、完璧と言われ続けてきた光也にとって、何を取っても平凡と言える桃李に負ける要素なんて何一つ存在しないはずだった。


「……どうしても八千代さんは俺に振り向いてくれなかった。だが、この世界では違う! 俺は勇者であり、この世界を救う主人公だ! そして真広はもういない。仮にいたとしても初級職の鑑定士が俺に敵うはずもなかったがな」


 不敵な笑みを浮かべる友を見つめながら、新は別のところに意識を飛ばしていた。


(……真広、お前は本当に死んだのか? それとも、どこかで生きているのか?)


 学校ではそこまで会話をしたことがない新だったが、その心は桃李の無事を願っていたのだった。


 ※※※※


「――……ひっく! ……春香、先生!」

「落ち着いて、円」

「ごめんね、ユリアちゃん。私のせいで、こんなことに、なっちゃって」


 円は春香がいなくなってしまったことに責任を感じていた。

 桃李のことについて、シュリーデン国側に話をしてみると言っていた春香だが、その二週間後には姿を消してしまった。

 シュリーデン国側の話では、桃李を探すために制止を振り切って王城を飛び出したということだったが、春香がそのような暴挙に出るとはどうしても考えられなかった。


「ここの人たちは絶対に何かを隠してるわ」

「私もその意見には同意よ。でも、今の私たちにはそれを探る力も伝手もない」

「……やっぱり、従うしかないのかな?」

「そうね、そうかもしれない――今だけは」

「……今だけは?」


 円は顔を上げると、意味深にそう口にしたユリアを見る。


「レベルを上げれば私たちだけでも動くことはできるはず。そうなったら、桃李と春香先生を探しに行こうじゃないのさ!」

「ユリアちゃん……でも、本当にいいの? そんなことをしたら、私たちはここの人たちの敵になっちゃうかもしれないんだよ?」


 自分だけならどうなってもいいと思っている円だが、そこに誰かが関わるとなれば話は変わってくる。それが親友であるユリアであればなおさらだ。

 しかし、ユリアの心はすでに決まっており、ユリアから見ても親友を想う気持ちは同じだった。


「私だって円のことが心配なのよ。それに、あんたが桃李のことを好きだってのも知っているからね」

「――! ……な、何で知ってるの?」

「そりゃあねぇ……円の態度を見てたら誰でも気づくわよ。気づいていないのは桃李だけじゃないかな」

「そ、そうだったの!?」

「あー、自覚なかったんだ」


 頬をポリポリと掻きながら苦笑しているユリアを見て、円は顔を真っ赤にして下を向いてしまう。


「……だからさ、円。今は従うふりをしてレベルを上げよう。そして、時が来たら動き出すのよ」

「……うん、分かった。ありがとう、ユリアちゃん」


 先ほどまで泣いていた円だったが、表情は大きく変わり今では決意に満ちた顔になっている。


(生きているよね、桃李君、春香先生。私たちが絶対に助けに行くからね)


 円は心の中で桃李と春香の無事を祈り、この日から必死にレベル上げを行うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る