第19話:本当によくある勇者召喚 17

 その日の晩も三人で食卓を囲んだのだが、そこでグウェインから嬉しい報告を聞くことができた。


「護衛を見つけることができましたよ」

「えっ! 嘘、早くない!?」


 今日の昼に話をしてその晩には見つけたって、仕事が早すぎるでしょうに! いや、まあ、嬉しいんだけどさ!


「実は、僕の友人がここで兵士をしているんですよ」

「兵士ってことは、冒険者ではないんですね」

「冒険者を雇うとお金が発生しますから。もちろん、護衛をお願いしたリコットにもそれなりの給金は支払いますけどね」

「グウェイン、リコットちゃんにお願いしたんですか?」


 ちゃん付ってことは女の子か。……可愛い女の子だったら嬉しいなぁ。


「リコットちゃんは下級職ではありますが騎士の職業持ちで、レベルも15と若い兵士の中でも将来を期待されているんですよ」

「僕が言うのもなんですが、グランザウォールではもったいないレベルの兵士ですね」


 魔の森の魔獣だとレベル50とか60がうようよしていたけど、レベル上げは魔の森とは逆側で行うから問題はないのだろう。

 それでも俺にとっては強敵であることに変わりはなく、いったいどの程度の魔獣が現れるのかは気になってしまう。


「この周辺にいる魔獣のレベルはどの程度なんですか?」

「平均レベルは10から15です。高い個体だと20を超えるものもいますが稀ですね」

「リコットならレベルの高い個体さえ出て来なければ問題ないですよ」


 グウェインの補足がとてもリコットさんを褒めるものになっているけど、これってもしかして。


「……グウェインはリコットさんのことが好きなの?」

「ぶふっ!? ……トウリ、いきなり何を言い出すんだよ!」


 ほほう、その反応は図星ではないのかな?


「ふふふ、グウェインとリコットちゃんは幼馴染ですからね。リコットちゃんはグウェインのことを好いていると思いますよ」

「ね、姉さんも変なこと言わないでよ!」

「あら、本当のことだもの、仕方ないじゃないの」


 顔を真っ赤にして料理を口に運び始めたグウェインを見て、俺とアリーシャは顔を見合わせて笑ってしまった。


「でもさ、俺のために時間を貰っちゃってもいいのかな。リコットさんにも仕事があるんでしょう?」

「グランザウォールを守るのが兵士の仕事であり、その助けになることをやろうとしているトウリを手助けするのも仕事の内ってことだよ」

「それに、リコットちゃんのレベル上げにもなりますから、こちらにもメリットがあるんですよ」


 兵士になると伸び盛りな若い兵士が順繰りでレベル上げを行いに都市の外へ行くらしいのだが、結構な人数がいるのでなかなか順番が回ってこないらしい。

 何らかの依頼によって外に出られるのは、若い兵士にとってもありがたいことなのだとか。


「……あれ? そういえば、俺って何の装備も持ってないんだけど、準備した方がいいよね?」

「ご心配なく。兵士に配給されるものですが、僕の方で装備を一通り揃えておきましたから」


 これも早いな! グウェイン、グッジョブ!

 この世界の装備ってどんなものがあるんだろう、楽しみだなぁ。まあ、門兵が持っていたのが槍なので、剣とか槍がメインなんだろうけどさ。


「剣、槍、斧、杖が主な武器になります。防具は動きやすいよう軽鎧を準備しました。レベル1で重鎧とかは逆に動けなくなりますからね」

「軽鎧で大丈夫です!」

「それはよかった。今はエントランスに置いているので、食事の後にこちらへ運びましょう」

「いえ、俺がエントランスに行きますよ。その方が片付けも早いだろうし」


 俺が早く見たいだけなんだけどな!

 ということで、俺はウキウキした気分で食事を終えるとグウェインと一緒にエントランスへと足を運んだ。

 ちなみに、アリーシャは食器の後片付けである。何だか怒っていたようだけど、俺にはどうすることもできないので致し方ない。

 ……後でグウェインが生贄にならないことを祈るのみである。


 エントランスに到着すると、そこにはズラリと武器が立て掛けられており、軽鎧は布の上に並べられていた。


「おぉぉ、おおおおぉぉっ!!」


 俺は堪らず歓喜の声をあげてしまう。

 剣でも長剣や短剣があり、槍にも様々な長さのものがある。とても巨大な戦斧なんてものもあるが……さすがにこれは無理だな。

 それでも見ているだけで気分は高揚してしまうのだから不思議なものである。


「トウリの体格だと、こっちの剣か槍がいいかもしれないね。盾もあるから、剣を選ぶなら一緒に見た方がいいかな」

「剣がいいです! 後、盾は持つタイプじゃなくて腕に取り付けられるタイプがいいです!」

「そうか、それなら……これなんかどうかな?」


 グウェインが見繕ってくれたのは、刀身が50センチ程の片手剣と腕に取り付けるタイプで丸い形のバックラーだ。

 俺は片手剣を抜いて刀身を見つめると、新品の光沢が美しくて見惚れてしまう。

 バックラーは実際に腕へ付けてみたのだが重くもなく軽くもなく、ちょうど良い重さでしっくりくる。


「……トウリ、剣を握ったことがあるのかい?」

「いや、初めてだよ。俺のいた世界では武器を持つ機会なんてなかったからね」

「そうなんだ……不思議だな、とても様になっているよ」

「そ、そうかな」


 少しだけ照れてしまった俺は片手剣を鞘に納めると、気持ちは高揚したままでグウェインに改めて確認する。


「これ、本当に借りてもいいのか?」

「借りる? いやいや、これは僕からのプレゼントだよ」

「えっ! ……い、いいのか?」

「もちろんだよ。でも、ちゃんとそれなりの成果でお返ししてよね」


 グウェインは満面の笑みを浮かべてそう答えてくれた。


「ありがとう、グウェイン! 俺、明日から頑張るよ!」

「期待しているからね、トウリ」


 そして、二人で装備を片付けているとアリーシャが駆け足でエントランスにやって来た。


「も、もう終わっちゃったの!?」

「はい! とても良い装備を選ぶことができました!」

「……なんで片付けちゃうんですか!」

「はいはい、姉さんは明日見ようね。トウリは明日に備えて休むんだからね」

「ぐぬぬぬぬっ! ……グウェイン、後でリビングに集合だからね!」


 アリーシャはそのまま大股で去って行ってしまった。


「……なんかごめん、グウェイン」

「いや、予想通りだから気にしてないよ」


 まさか本当に生贄になってしまうとは……明日はマジで頑張らないとな、うん。

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