第12話:本当によくある勇者召喚 10

 ――ズズズズゥゥ。


 俺は心なしか満足気な表情を浮かべながら戻ってきたアリーシャさんが入れてくれた紅茶を飲みながらくつろいでいる。

 グウェインはどうしたのかと聞いても、気にするなの一点張りだったのでこれ以上は聞かないことにした。

 その代わりではないが、俺のスキルを使って二人の役に立てないかと提案してみた。


「マヒロさんの鑑定は確実に役に立つのですが、あまり広めない方がいいんですよね」

「確かにその通りですね」

「なので、ここでも私やグウェインが信頼できる人と行動を共にしてもらう必要があるのですが……」

「もしかして、いないんですか?」

「いえ、いるにはいるのですが、忙しい方なのです」


 俺の言葉にアリーシャさんは嘆息しながら答えてくれた。

 まあ、使用人が出て行くくらいだし、信頼できる人間が少ないのは仕方がないか。


「うーん、それなら俺のレベル上げに協力できる人はいますかね?」

「そういえば、マヒロさんのレベルはいくつなのですか?」

「レベルは1です」

「……す、すみません、聞き間違えたみたいです。今、レベル1と聞こえたような?」

「はい。俺のレベルは1ですよ?」

「……」

「……えっ、何かおかしいですか?」

「お、おかし過ぎますよ!」


 アリーシャさんは大声をあげて驚いていた。

 ……いや、驚いたのは俺の方だよ。そしてものすごい表情ですよ、アリーシャさん。


「……あの、レベル1がそれほどおかしいんですか? 異世界人だし、現状のレベル1は普通だと思うんですけど?」

「おかしいですよ! マヒロさんは魔の森で数日生き抜いたんですよね? レベル1でどうやって魔獣の相手をしていたんですか!」

「魔獣の相手はしてませんよ」

「……えっ?」

「ずっと逃げてました。戦えないので」

「…………ええぇぇぇぇっ?」


 いや、だって、鑑定士ですもの。


「魔の森で魔獣から逃げるって、普通はできませんよ?」

「でも実際にできちゃいましたからね。ほら、ここにやり遂げた人間がいるわけですし」


 嘘は言っていないし、全て本当のことだ。

 俺はどうやって魔の森で過ごしてきたのかを説明すると、アリーシャは口を開けたまま固まっており、動き出したかと思えば部屋を飛び出してしまい、そして再び現れた時には首根っこを掴まれたグウェインも一緒……って、大丈夫なのか!?


「グ、グウェイン、その顔はどうしたのさ!」

「あは、あははー、ちょっと調子に乗り過ぎただけだから気にしないでー」

「……」


 ……あっ、はい。無言のまま笑みを浮かべているアリーシャさんを見て納得しました。

 左の頬を真っ赤に腫らしたグウェインもイスに腰掛けると、俺はもう一度同じ説明を口にする。

 結果としてグウェインもアリーシャさんと同じ反応となり、腕を組みながら唸り始めてしまった。


「うーん……あり得ない!」

「そうですね、あり得ないのよねぇ」

「そんなこと言われてもなぁ……そうだ! 二人とも、ちょっとだけ待っててね!」


 俺は二人に信じてもらう為にはどうしたらいいのかを考え、言葉だけではなく証拠を突きつければいいのだと理解した。

 アリーシャさんの部屋を飛び出した俺は自分の部屋へと向かい、小皿に移していたぶどうを手にして戻る。

 テーブルに小皿を置くと二人はしげしげと眺めた後、首を傾げながらこちらを向いた。


「……あの、マヒロさん、これはいったい?」

「これは俺が魔の森を脱出するために食べていた果物で、一時的に能力が上がる食べ物なんです!」

「……またまた、ご冗談を言いますね、トウリは」

「本当だって! これを一粒食べると速さの能力値が倍になったんだよ! 疑うならどっちかが食べてみたらいいって!」


 必死の説得が通じたのか、二人は顔を見合わせると一粒ずつ口に運んだ。

 その手が若干震えていたように見えたのだが、それはきっと気のせいだろう。……まあ、常温のまま置いてたから鮮度は落ちているかもしれないけど。


「……まあ、ぶどうだね」

「……普通よりも甘くて美味しいぶどうですね」

「うんうん、美味だよねぇ……って、そこじゃなくて! ステータスを確認してみてよ!」


 確かに美味しさには感動したけど、大事なのはそこじゃなくてステータスが上がるかどうかだからね!


「俺の場合は速さが5しかなかったから倍になっても10とか、二粒食べて15とかだったけど、二人の場合はどうなるのか気になるんだけど……って、どうしたの? なんか、ものすごく変な顔をしてるけど?」


 アリーシャさんもグウェインも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でステータス画面を見つめている。

 しばらくそのままの状態で動かなくなっていた二人だが、ゆっくりと顔を見合わせてお互いにアイコンタクトを取ったのだろうか、続いて同じ速度でこちらを向いた。


「「……ほ、本当に上がってる!」」

「だから言ったじゃないですか!」


 そこからは二人の質問攻めとなり、俺が知りたい情報はお昼まで聞けずじまいになってしまった。

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