第13話:本当によくある勇者召喚 11

「「――も、申し訳ございませんでした!」」


 お昼ご飯の時間になると二人から揃って謝られてしまった。


「いや、俺も信じてもらうためとはいえ迂闊でした。魔の森には立ち入らないのが普通なんですもんね」


 要塞都市と呼ばれているとはいえ、あくまでも魔の森から溢れてくる魔獣を対処するために築かれた都市であって、調査を目的とした都市ではない。

 そして、魔の森は必然的に謎が多い場所として世界に認知されているのだとか。


「魔の森から溢れてくる魔獣は淘汰された魔獣です。それでもレベルが高く私たちの脅威になることには変わりありません」

「ですから、グランザウォールを拠点に動いてくれている冒険者のレベルも高いんですが、それでも魔の森に自ら足を踏み入れようとする者はいないんですよ」

「そりゃそうですよね。レベルが50や60が当たり前の魔の森に行こうなんて、普通は考えませんよね。能力値も桁違いだったし、マジで生き残れたのが奇跡――」

「魔の森の魔獣のステータスを鑑定できたのですか!?」


 ……身を乗り出さないでね、グウェイン?


「……グウェイン、今は昼食の途中ですよ。このままでは先ほどと同じ展開になってしまいます」

「はっ! ……ご、ごめん、トウリ」

「いや、いいんだけどね。しかし、今の反応を見たところだと、やっぱりおかしいんだね」

「……そう、だね。魔の森の魔獣はトウリが言ったみたいにレベルが高い。それ故に、鑑定スキルにも相応のレベルが必要になってくるんだ」


 鑑定スキルのレベルが低ければ、強い魔獣や貴重な素材を鑑定することはできないってことかな。この辺もラノベとかに出てくる鑑定スキルと似たようなものだ。


「実際に、さっきのぶどうを僕が鑑定して見ても何も分からなかったよ」

「えっ! ……あのぶどう、めっちゃ貴重な果物だったんだ」

「一時的とはいえ、能力値が上がる食べ物なんて聞いたこともありませんからね」

「でも、だからこそ情報を出すかどうかは気をつけなければならないんだ」

「どうして? 貴重なものだからこそ価値があるんじゃないの?」


 これが世間に出回れば冒険者も動きやすくなるだろうし、何より魔の森の調査を国が主導で行ってくれるのではないかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。


「国が動けば人が動く。人が動けば物資が動く。でも、グランザウォールには物資もなければ大量の人を受け入れる施設もない」

「それに、情報なんてものは一度外に出てしまうと一気に広まるものだからね。自分の実力を過信して、魔の森に突っ込んでいく冒険者が出てこないとも限らない」

「……そっか。そしたら死人が増えてしまって、それが抑止力となり結局国も動かなくなるかもしれないってこと?」

「冒険者の命くらいで国が及び腰になるとは思わないけど、可能性はゼロではないかな」

「ですから、情報を出すにもどこに出すのか、どのようにして伝えるのかが大事になってくるんです」


 人の口に戸は立てられないとはよく言ったけど、どこの世界でもそれは変わらないんだな。


「うーん、それだと俺が二人の為にできることがないんだよなぁ」

「「……んっ?」」

「……えっ?」


 いや、何でそこで疑問形なんでしょうか。これだけお世話になってるんだからお返しをしたいに決まってるんですけど。


「だって、追い返されそうになったところを助けてもらって、さらに泊めてもらって食事まで食べさせてもらったんだよ? 俺にできることがあれば何か返したいんだよね」

「ですが、私は祖先と同じ異世界人であるマヒロさんを助けたかっただけです。これは、私がやりたくてやっただけなんですよ」

「僕もそうだよ。それに、トウリと仲良くなりたかったからね」


 二人は何もいらないと言うけれど、それでもできることはやってあげたい。


「そうだなぁ……あっ! それじゃあ、俺は冒険者としてここで活動しようかな!」

「いや、それは……」

「止めた方がいいかな……」

「えっ、どうして?」


 俺が首を傾げると二人は同時にこう答えた。


「「レベル1だから」」

「……あー、そうですか」


 まあ、レベル1の冒険者なんて聞いたことがないのかもしれないな。それに、鑑定士が冒険者になるってのも普通ではないのかもしれないし。

 それでも、俺は二人の助けになりたいという感情とは別に、この世界を満喫したいという感情も持っている。冒険者になるというのは、その一つの手段なのだ。


「それじゃあ、レベルを上げれば問題ないですか?」

「ですが、鑑定士ですからねぇ」

「……いや、もしかしたら可能かもしれないよ、姉さん」

「どういうこと、グウェイン?」


 アリーシャさんとは対照的な意見に俺は一縷の望みを見い出した。

 そして、その答えは俺の望みを叶えるに値するものだった。


「だって――異世界人だった祖先の職業も元は鑑定士だったんだから」

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