第9話:本当によくある勇者召喚 8

「鑑定士というのは、簡単に言うと目の前にある物体がどのような物なのか、どういった状態にあるのかを視覚的に見ることができる職業のことを言います」


 そんな感じで始まった鑑定士講座は、俺がラノベで得た知識と大きく変わることはなかった。

 名前、状態、品質、それらを視覚的に――今回の場合で言うと文字として見ることができる。

 死の森にいた俺の場合はもっぱら食べ物と魔獣の鑑定ばかりだった。

 食べ物でいうと名前、食べ頃かどうか、品質の善し悪し。

 魔獣でいうと名前、レベル、各スキルや能力値、個体によっては注意事項も表示されてたっけ。

 鑑定する対象によって表示される項目も変わるようなので、先ほど花瓶を鑑定したのもそういうことだったのか。


「鑑定をするには物体を視覚に捉えていなければできないのと、戦闘が全くできない職業ということもあり初級職になっています」


 ……ん? 視覚に捉えていないとできない?


「グウェインさん。俺の鑑定は視覚に捉えていなくても鑑定ができてしまうんですが、それはどうしてだと思いますか?」

「……そんな話、聞いたことがないですね」

「マヒロさん、本当に視覚に捉えていなくても鑑定ができてしまうんですか?」

「は、はい。そのおかげで俺は生き残れたと言っても過言ではないですから」


 食べ物の場所も、魔獣の居場所も、そして一時的に能力が上がる食べ物も、全てが鑑定スキルが案内してくれたのだ。

 今考えると、あの案内がなかったら俺は魔の森で魔獣に喰われて死んでいただろうからゾッとするな。


「……これ、僕たちが最初に知ることができてよかったかもしれませんね」

「……そうね。というか、マヒロさんを召喚した人はどうして追放したのかしら」

「あー、それはですねぇ――」


 俺はここで初めて王城でのやり取りについて説明した。

 鑑定士と知った途端に取り付く島もなくあしらわれて(神眼)については誰も知らないこと、そして部屋に入るや否や転移で魔の森に追放されたのだと。


「……念の為に確認するんですが、マヒロさんを召喚したのはシュリーデン国で間違いありませんか?」

「間違いないと思います。王様っぽい人がシュリーデン国って言ってたし、宰相っぽい人もシュリーデン国の状況について説明していたので。……あれ? そういえば、グランザウォールって何処にあるんですか? シュリーデン国?」


 アリーシャさんの確認に俺は素直に答えたのだが、追放させられたとはいえここがシュリーデン国内である可能性もゼロではない。

 先ほどの言い回しだと違うと思いたいが、もしそうであれば俺が生きていると突き出されるかもしれないのだ。


「いえ、ここはシュリーデン国ではありません。ここはアデルリード国、その国土でも辺境に位置する防衛都市です」

「アデルリード国ですか。……俺、突き出されたりしませんよね?」

「そんなことしませんから!」

「異世界人を祖先に持つ僕たちですよ!」

「……そ、そうだよな、ごめん、ちょっと不安になってたみたい」


 人と出会えてホッとしたら、途端に不安が押し寄せてきた。

 よく考えれば二人が俺を突き出す理由もないし、グウェインさんが言ってくれたみたいに、祖先が異世界人なわけだから同郷を突き出すなんてしないだろう。


「……マヒロさん、まだ早いですが休まれますか? 部屋は余っておりますし、グランザウォールにいる間は私たちの屋敷で面倒を見ますよ?」

「そうですよ、マヒロさん。僕も力になれると思いますから」


 ……うぅぅ、この世界に来て初めて頼れる人に出会えた気がする。


「ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」

「まだ分からないことの方が多いと思いますが、まずは休んで明日になってから教えていきますね」

「それじゃあ僕が案内します」

「お願いします、グウェインさん」


 立ち上がった俺はアリーシャさんに頭を下げて部屋を出た。

 そのままグウェインさんの案内で空いている部屋に案内されると、そこは王城で案内された部屋とは段違いに綺麗にされた素晴らしい部屋だった。

 空いている部屋と言っていたけど、そこまで手を回して掃除しているなんて素晴らしすぎるよ!


「何かあればこのベルを鳴らしてください。僕か姉さんが来ますからね」

「本当に何から何までありがとうございます、グウェインさん」

「……あの、マヒロさん。良ければなんですが、僕のことはグウェインと呼んでくれませんか? それに敬語も不要で」


 年上に呼び捨てはダメだろうと思っていたのだが、グウェインさんからの頼みなら問題はないのかな。


「……分かった。それじゃあ、俺のことも桃李って呼んでよ。俺のいた世界だと、桃李の方が名前になるからさ」

「トウリ……うん、ありがとう、トウリ!」


 満面の笑みを浮かべたグウェインは手を振り部屋を出て行った。

 その笑顔はとても輝いており、金髪も相まって男同士でも見惚れてしまいそうになる程だった。


「……寝よう。うん、今日は寝よう」


 俺はポケットからぶどうを取り出すと、テーブルに置かれていた何も入っていない小皿に入れてベッドへ横になる。

 久しぶりのふかふかベッドに感動していると、昨日と同じように1分としないうちに深い眠りについたのだった。

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