第8話:本当によくある勇者召喚 7
予想はしていたけど、ヤマトさんの驚きの表情を見れるとは思わなかったな。
「やっぱり、おかしいことなんですね」
「……少なくとも、私は聞いたことがありません」
「そうですか。ちなみに、鑑定士はどういったことができるんですか? 召喚された当日にいきなり転移させられたので、何も聞かされていないんですよね」
話を変えようと鑑定士についての情報を集めようと思ったのだが、ヤマトさんは顎に手を当てて考え始めてしまった。
……うん、美人が考えている姿はずっと見ていられるかも。
「……私が説明するよりも、同じ鑑定士から説明してもらった方がいいかもしれませんね」
「それは嬉しいんだけど、俺の秘密がバレませんかね? 一応、異世界人ってのと(神眼)については秘密にしておきたいんですが」
これが異質な能力だと分かれば、それを悪用しようと考える輩が出てくるかもしれない。
ヤマトさんがそうかもしれないけど、この人はそんなことをしないと思えてしまうから不思議である。
「私が信頼している人ですからご安心ください。屋敷に在中しておりますからすぐにお呼びしますね」
……在中? お抱え鑑定士ということだろうか。
俺はヤマトさんを見送ると、部屋の中に置かれている調度品に目を向ける。
豪奢な装飾が施されているものは一つもなく、落ち着いた雰囲気のものがほとんどだ。
試しに仕事用と思われる机に置かれている花瓶に鑑定を掛けてみると、300ゼンスという表示が出てきた。
(そういえば、この世界の通貨についても分からないな)
俺は知っておかなければならない知識の優先順位を考えながら時間を潰していると、ノックがされてヤマトさんが入ってきた。
その後ろには眼鏡を掛けた柔らかい表情の男性が立っている。ヤマトさんと同じ鮮やかな金髪で俺と同い年か、少し上といった感じに見える。
「初めまして。僕は鑑定士のグウェイン・ヤマトと申します」
「お、俺は真広桃李と言います。……って、ヤマト?」
同じヤマトで、同じ鮮やかな金髪で、同じ屋敷に在中……うん、確定だ。
「姉弟、ですか?」
「「その通りです」」
……うん、笑顔がそっくり!
姉弟なら信用できるに決まっているし、祖先が異世界人だというのも同じなのだから隠す必要もない。
鑑定士(神眼)についてはどうしようと考えてしまうが、ヤマトさん……えぇい、どっちもヤマトだからアリーシャさんか! アリーシャさんと同じように、グウェインさんにも悪い印象を不思議と感じないので、伝えてもいいと思えてしまう。
「姉さんから聞きました。マヒロさんも魔の森に転移させられたとか。生きてここまで来られて本当によかったと思います」
「あはは、本当にその通りです」
「鑑定士について知りたいと聞きましたが、間違いありませんか?」
「はい、その通りなんですが……」
何故かグウェインさんが(神眼)について聞いてこない。
俺はチラリとアリーシャさんに視線を向けたのだが、何故かウインクされてしまった。
(……これは、俺に判断を任せるってことなんだろうか)
アリーシャさんに教えたのは情報を知るためであり仕方のないことだったが、(神眼)がおかしな表示だということに今は気づいており、誰に伝えるかも俺が選ぶことができる。
そこを考慮して実の弟であるグウェインさんにも伝えていなかったのだろう。
「……その前にグウェインさん、一つ聞きたいことがあるんです」
「なんでしょうか?」
首を傾げたグウェインさんに、俺は(神眼)と表示されていることを口にした。
アリーシャさん同様に口を開けたまま驚いており、そして俺からアリーシャさんへ視線を向ける。
「……本当、なんですか?」
「本当よ。私の口から勝手に伝えていい情報ではなかったから伝えなかったの、ごめんね」
「……いや、これは姉さんの判断が正しいよ。そして、マヒロさんはどうして僕に教えてくれたんですか?」
「うーん、アリーシャさんと同じで、グウェインさんからも悪い印象を感じなかったからかな」
正直に伝えると、今度は呆気にとられたような表情をされてしまった。
「……ありがたいですが、もっと慎重になってくださいね?」
「……えっと、なんかすみません」
とりあえず謝ったところで話は本題に戻った。
「まずは(神眼)についてですが……すみません、僕にも分かりません」
「そうですか。それならそれでいいんです」
うーん、やっぱり分からなかったか。
異世界人特有の表示なのだろうか。そうなると、お城で誰にも確認できなかったのは痛かったかもしれないな。
「……それじゃあ、鑑定士について教えてくれませんか? この世界に来た以上、俺はここで生きていかないといけないので」
「分かりました。僕で良ければお力になりますよ」
アリーシャさんがお茶を入れ直してくれたタイミングで、グウェインさんの鑑定士講座が始まった。
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