第7話:本当によくある勇者召喚 6

 外壁の内側は俺が見てきた森の中とは全く違う世界が広がっていた。

 ……まあ、当然と言えば当然なんだが、シュリーデン国でも王城の中しか見てなかったから、城下町がどんな感じとか分からなかったんだよな。

 グランザウォールは防衛都市ということで物騒な場所かと思っていたのだが、子供を連れた家族も多くいて明るい声が聞こえてくるし、市場にも活気があり客寄せの声があちらこちらから聞こえてくる。

 中には武器を持っている物騒な人もいたのだが、その人たちも笑みを浮かべていることが多く仏頂面の人は少ない。

 俺は田舎者全開でキョロキョロしながら辺りを見ていたのだが、そこにクスクスとヤマトさんの笑い声が聞こえてきたので、恥ずかしくなり下を向いてしまった。


「あっ! ご、ごめんなさい、マヒロさん。その、そんなつもりで笑ったんじゃないんです」

「いえ、その、恥ずかしい行為だったことに変わりはないので」

「私はマヒロさんが可愛らしいと思っただけなんですよ?」

「……それはそれで恥ずかしいですね」


 あはは、と苦笑を浮かべるとヤマトさんも似たような表情を浮かべる。

 そんな感じでしばらく歩くと、正面に大きな二階建ての屋敷が現れた。

 門から玄関までのアプローチが長く、どこかのお貴族様の屋敷だろうかと感心していると――


「こちらが私の屋敷になります」

「……あー、そうですか。すごくお金持ちなんですねー」


 ま、まあ、ここを治めている一番偉い人なんだから、当然と言えば当然か。

 門兵が門を開けると、俺は恐縮しながらヤマトさんに続いて敷地内に入っていく。

 っていうか、外から来た他人をいきなり屋敷に案内するってどういう神経をしているのだろうか。それとも、俺と同じで何か特別なスキルを持っていて、俺が敵じゃないと分かっているとか?

 理由は分からないが、俺にとってはありがたいことなので何も言わないでおこう。

 玄関を抜けてエントランスから二階に上がり、通されたのは何とヤマトさんの部屋だった。


「……えっと、あの、俺はここで何をさせられるんでしょうか?」


 ドアの前で立ち尽くしながら俺が問い掛けると、ヤマトさんは微笑みながらイスに腰掛けるよう促してくる。


「ご安心ください。何も取って食べようなんて思っていませんから」

「取って、食べる……ははは」

「だから、そんなこと思っていませんから!」


 ……まあ、他にどうしようもないしな。

 俺がイスに腰掛けると安堵したように息を吐き出しながら紅茶を注ぎ、ティーカップをテーブルに置いたヤマトさんが向かい側に腰掛ける。


「……まずは、マヒロさんの疑問にお答えする必要がありますね」

「それは、どうして俺が異世界から来たことを知っていたのかってことですよね」

「その通りです。とはいえ、マヒロさんも薄々は気づいているのではないですか?」

「ということは、やはり?」

「はい。私は――異世界から来た人を祖先に持つ人間なのです」


 やっぱりか。

 ヤマトの漢字はおそらく大和だろうし、日本名みたいだと思ったのも間違いはなかったようだ。

 とはいえ、俺の名前を聞いただけで異世界人だと分かるものだろうか。

 同じ異世界人が聞けば分かるかもしれないが、ヤマトさんは生まれも育ちも結局はこの世界なのだから。


「……マヒロさん、一つ失礼な質問をしてもよろしいですか?」

「はい」

「マヒロさんは勇者召喚をされた後、下級職や初級職だったせいで追放されたのではないですか?」


 俺はまさにその通りだと驚きながら無言で頷いた。

 この質問が口にされたということは、ヤマトさんの祖先も同じ扱いを受けたということだろう。


「やはりそうでしたか。……マヒロさんが抜けてきた森は、魔獣の巣窟と化している魔の森なのです」

「死の森じゃなくて、魔の森でしたか」

「死の森、ですか?」

「あぁ、すみません、こっちの話です」

「……魔の森には通常では考えられないような力を持つ魔獣が生息しており、国の国家騎士でも単独では生き残れないと言われている場所なのです」

「あー、だから俺が森を抜けて来たって言ったら、兵士が警戒したのか」


 そんなとこに転移させるんじゃねえよ、あのムカつく王様が!


「……ん? っていうか、もしかしたら俺と同じ運命を辿った異世界人もいたかもしれないってことですか?」

「かもしれません。ですが……魔の森を抜けてここまで辿り着けたのは、祖先とマヒロさんの二人だけだと思います」

「……そう、ですか」


 勝手に召喚しておいて、役立たずだったら魔の森に転移させて証拠隠滅ってことか。

 胸糞悪くなってしまうが、俺は本当に運が良かったんだと改めて実感してしまう。……運が100あるからそのおかげなのかも。


「……そうだ! ヤマトさん、お聞きたいことがあるんですがいいですか?」

「お答えできることなら」


 ようやく人と出会えたのだ、俺はずっと疑問に思っていた自分の職業について聞いてみることにした。


「俺の職業は鑑定士。城の人には初級職と言われました」

「仰る通り、鑑定士は初級職ですね」

「それは分かるんですが、鑑定士の横に括弧が付いて(神眼)って表示されているんです。これは普通ですか?」

「……へっ?」


 どうやら、普通ではないようです。

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