第4話:本当によくある勇者召喚 3

 俺は魔獣の強さも鑑定スキルで把握している。

 正直、能力を上げたからといってすぐに倒せるような魔獣はいなかった。

 どいつもこいつもレベルが50とか60とか、桁が違い過ぎるのだ。

 各能力値も三桁越えが多く、中には四桁に迫るほどの魔獣もいたくらいだ。


「やっぱり、速さを上げて逃げるが勝ち戦法をするしかないよな」


 果物は五種類あり、それぞれで上がる能力が異なっている。


 赤色でりんごのような果物は筋力。

 緑色でマスカットのような果物は耐久力。

 紫色でぶどうのような果物は速さ。

 黄色でバナナのような果物は魔力。

 橙色でみかんのような果物は器用。


 運が上がる果物はなかったが、そもそも運の数値は100あるので上げる必要はないと思う。というか、何に影響しているんだろうか。

 それはさておき、俺はこの果物でどれくらい能力が上がるのか確認する為にぶどうをもぎ取り食べてみた。


「……うん……これは……美味い!」


 ……はっ! 危ない、危ない。味を堪能している場合じゃなかったよ。

 俺はぶどうを完食すると、ステータスを開いて速さの能力値を見てみる。


「……おぉっ! 5だったのが10になってる!」


 そして、腕時計を見ながらどれほど継続されるのかも確認だ。

 ……30秒……1分……2分…………ほほう、5分経つと元に戻ったな。

 次に複数食べた時の上がり方を検証する。


「……これ、ぶどうだからいいけど、りんごとかみかんとかバナナだと、食べるのに苦労しそうだな」


 そんなことを考えながらぶどうを二粒食べてステータスを確認する。

 すると、5だった数値が15に上がっており、そのまま時間を計ると変わらず五分で元に戻った。

 速さが上がる果物がぶどうだったことに感謝しながら、俺は他の果物も食べてみた。

 味は見た目そのままの味なのだが、どれも甘くて濃厚な味わいが楽しめる果物で大満足だ。


「……あれ? 魔力と器用だけが10から20に上がってるな」


 単純に5の数値で上がるというわけではなさそうだ。

 魔力や器用の上がり方を見ると能力値が倍になる果物なのかと考えたが、それだと一粒で5から10、二粒で10から20になるのではないか。

 そうなっていないということは……元の数値から二倍、三倍と上がっていると考えれば二つ食べて速さが5から15になったことの説明は付くかな。

 そして、複数の能力を同時に上げることも可能なようで、こちらも5分で元に戻る。


「うーん、検証はまだまだ必要かもしれないけど、基本的に5分間だけ上昇すると思っておけばいいのかな?」


 食べてから上がった数値を確認する、そして5分で魔獣の群れを突破して人里へ下りていく。……うん、俺が森を抜け出すにはそうするしか方法がないな。

 危険な賭けであることに変わりはないが、それ以外に考えられない。というか選択肢がないのだ。


「人里に出たら、鑑定士(神眼)を活かして自由気ままな異世界生活を送るんだからな!」


 俺はそう決意すると、不思議と大木の周辺に魔獣がいないことに気がついた。

 今までは偶然見つけた洞窟で怯えながら夜を明かしていたけど、ここなら安心して眠ることができるかもしれない。

 それにぶどうを近くに置いておけば、もしもの時にも一気に食べて逃げ出せるだろう。


「ふわあぁぁ……眠い」


 やることが決まった途端に眠気が襲ってきた。

 お腹もいっぱいになったし、魔獣がいないと分かって安心感も出たからだろう。


「うーん、夜は魔獣が活動的になってるっぽいし、決行するなら朝一だな。今日はもう寝るとして……動くのは明日……から…………ぐぅー」


 相当疲れが溜まっていたのだろう、俺はいつの間にか大木にもたれ掛かったまま寝てしまった。

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