第26話 亜人の歴史
馬車に揺られてプテロートへと向かう。
「亜人は嫌われ者なんですよね……
昔起きた疫病とか災害とかの度に私たちのせいにされて……
私たちは、離散していて少数派ですし、
どの国でも不満のはけ口にするにはもってこいだったんでしょう。
差別だー!!って亜人たちで揃って言っても、
これはもはや差別じゃない、区別だ!!
人間と亜人は違うんだよ!!!
慣習だから仕方ないよね?
みたいな感じの答えしか帰ってきませんし……」
ぽつぽつ、と話してくれているミーシャさんのその表情はとても悲しそうだ。
「その点、王女様は亜人にも理解がありますし、みんな平等にしようとしてくれてるので良いのですが……
たとえ苛政や、亜人排斥的な政治をしいていても現国王に刃向かう力はないですし、
上流階級は自らの保身と欲のためにそれを支えています。
それ以前に、普通の農民や市民でも、多くの人間は私たちのことを見下す心をどこかに持っていますし……」
人間の性質は本来悪である。
って荀子は言っている。
人間は利益を追い求める。
人間の根底にあるものがそのまま出てくると争いになる。
また、人間には何かを批判し、責任をなすりつけようとする非難本能もある。
何か見下す相手でも、何か不満のはけ口にする相手でも。
そういう存在を作り上げることで人は心の平穏を保つ。
これもまた人間の卑しい部分なのである。
まず、人である以上は自らにせよ誰か他人にせよ、このような側面を持ちうる。
いわば、人として避けられないこと。
だから彼らのとる行動も、本能的には理解できるものだ。
だけど、道徳的にはよくない。
いかにそれを減らしていくかを考えることが社会ひいては世界を平和とやらにする糸口である。
「そもそも、亜人ってどのような存在なの?」
亜人の地位向上と平等の実現が、争いの種を摘むためには間違いなく必要だろう。
人種問題はいつの日も争いの火種となる。
だけどその前に。
亜人の差別の根幹に何があるのか。
それを知りたいと思った。
「じゃあ、亜人の歴史をお話しますね……」
▼▼▼▼▼▼▼▼
起立、礼、着席っ!
よし、それじゃあ今日もローテン史を学ぶかの。
彼がいた頃の時代には亜人差別が酷かったのじゃ。
亜人とはそもそも何なのか。という問いは生物学の分野で約500年?490年ほど前に俗説が証明されておる。
亜人はつまるところ、人間と何らかの動物ーー突然変異で高度な知能を持った動物たちーーの混血なのである。
故に人と動物両方の特性を持つ種族となる。
人よりも身体能力に優れた種になることもままあるのじゃ。
亜人は何かの動物と掛け合わされるということじゃが例えば、人と猫なら猫人、人と狐なら狐人、と言った感じじゃ。
亜人になると、人か同種族としか子をなせぬ。猫人が狐人と結婚してもダメということじゃな。
「先生!!
子をなすってどうやるんですかー??」
今はその話じゃない!!
親にでも聞いてみなされ。わしゃ責任はとらんけどな。
話を続けよう。
故に、じゃ。
彼ら、いろんな種族に分化していたが、それぞれ同族意識が強く、まとまって農耕などを営んでいた。
ちなみに彼らはローテン南方領に接する国、スラバニアに多く住んでいた。
じゃが、一時期、その多種族国家のスラバニアでは内紛が起きてな、難民が多く発生したのじゃ。
周りの国、ひいては世界へと難民が溢れたのじゃが……
これによって社会が混乱した。
スラバニアは一次産業中心の低所得国だったこともあり、亜人の多くは各国の低賃金労働者だった。
これにより、多くの他国のものが彼らに仕事を奪われた。
一説にはローテン王国のうち600万人が職を失ったとされる。
彼らの多くはスラムへと移るか、
領主のもとで農奴として働くかを迫られた。
そんななか、亜人への不満は日々募り続け、ついに爆発した。
人の多くは亜人排斥へと動く。
彼らは宗教も違っていた。
スカーレット20世の頃から赤正教と亜人の信仰する宗教の間で宗教対立があったのは既習のはずじゃ。
宗教対立の原因の一つもこの流れが影響しとるし、
なんなら対立を悪化させた背景にもこの話は絡んでくるのじゃ。
結局、人たちは亜人を宗教的に劣っている異端の民として扱い、
各所から排斥していった。
都市部では差別的な扱いを受けるし、
農村に行ったらほとんど農奴のような状態で農業をさせられる。
話によると中には王宮でひどい扱いを受けながら働くものもいたそうな。
そして魔女狩りというものも始まっていくのじゃが……
異端排斥に都合が良い話だったんじゃろう。
スラバニアとの国境付近の山に魔女の里への入り口が隠されていて、事あるごとに赤正教をはじめとする正教会を冒涜していた。
それを召喚された勇者、そうのちのスカーレット1世が退治したと。
そんな話がどこからか囁かれ始め、魔女狩りが始まるのだ。
一番大きなものとしては、南方領主だった猫人族一家が殺されたという話があるな。
暴君スカーレット33世の治世では、これが少女や幼女をとらえるために使われたとか。
恐ろしい事じゃ……
そんな彼ら亜人を中心に国民の不満ものちに爆発することになるのじゃ……
さて、そろそろ時間じゃな?
次回は、彼の初期の功績についてじゃ!!
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救世主は、まさに赤国の救世主であった。
ーー ケーニヒ・ハルドオン(2148~2223、バーミラの歴史研究家) ーー
注)赤国はローテン王国のことを指すというのが通説である。
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(場面は、馬車の中に戻り……)
そんな話があったのか……
あっちの世界でもこういう差別的な話はまあまあ有り得る話だが。
民族の宥和って難しいよなぁ……
そんなことを思う。
馬車は街道をプテロートへと下っていく。
天才高校生、異世界を「平和」にします?!〜異世界の女神のお願いで異世界を平和にすることになりました〜 あっきー @Carp0129
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